黒き獅子と銀黎の狼
□第1話
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「テメー、いい加減にしろや!!」
「また美鈴のこと、いじめやがって」
「これだけやられてまだわかんねーのか!?」
人気のない場所に響く、罵る声と暴力の音。それらは一方的なもので、しばらくすると唐突に止んだ。
「次やったら、ぶっ殺すからな!!」
「美鈴ちゃんに手ぇ出すんじゃねーぞ!!」
「おい、もう予鈴鳴っちまうぜ」
慌ただしく去っていく足音。それと入れ違うように近付いてきた複数の少年たち。
神「姉さん!!!」
「「「魅黎さん!!!」」」
地に倒れているぼろぼろの少女に駆け寄ったのは不動峰中の男子テニス部1年生たち。
そして倒れていた少女こそ、彼ら一年生の最も敬愛する男子テニス部マネージャー2年、刻司 魅黎。
神「姉さん、大丈夫か!?」
『…アキラ、落ち着きなさい。私は大丈夫だから』
石「無理しないでください、魅黎さん」
桜「石田の言うとおりです。すぐに手当てしましょう?」
『…あなたたち、授業をサボる気?本鈴が鳴る前に、早く教室へ戻りなさい』
神「だけど…」
『…アキラ、行きなさい。これは命令よ』
彼らは悔しげに顔を歪めた。彼女に言われたことには、逆らえない。なぜなら、それは彼らのための命令だから。それを知っているから、誰も反抗できない。
黙ったまま動かないアキラたち。このままだと本当に授業に遅れてしまう。
(…しょうがないわね。)
『…石田くん』
石「なんですか?」
『…悪いんだけど、保健室まで一緒に来てくれるかしら?』
「「「それじゃあ!!」」」
『ただし、他のみんなは教室へ戻りなさい』
「「「わかりました」」」
神「石田、姉さんのこと頼んだぞ?」
内「いいよな、石田は。体でかいから、魅黎さんのこと簡単に支えられるし」
『ほら、はやく行きなさい。遅れたら、今日の練習2倍よ』
それを聞いた全員が、顔をしかめ走り出した。彼女の方を気にしながら。また、アキラが魅黎の目を真っ直ぐに見つめ、言った。
神「なにかあったら、すぐに連絡くれよ?」
『わかってるから。今日も頑張っておいで』
ふわりと微笑んだ魅黎に安心したのか、神尾が持ち前のスピードで去っていった。
『…ごめんなさい、石田くん。少しだけつき合ってね』
石「いえ、気にしないでください。こうでもしないとみんな納得しませんし」
あいつら、魅黎さんのこと大好きですからね。あ、もちろん俺も。そう言ってのけた石田に彼女も笑む。
そして、石田が魅黎を支えるように校舎に向かって歩きだした。
それは端から見れば、石田が具合の悪い彼女を保健室まで送り届けようとする図になる。…これが、魅黎の考えだった。石田の遅刻に正当な理由をつければ、教師は何も言わない。
(…まあ、あながち間違ってないしね。)
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しばし歩いて着いた、保健室。二人は中へ入るも養護教諭はいない。
石「魅黎さん、ちゃんと手当てしてくださいね」
『もちろん。あ、少し待ってね。…と、これを教師に見せれば問題はないわ』
石「わかりました。それじゃあ、また放課後に」
『ええ、頑張ってらっしゃい、鉄』
石「!!…はい!!」
鉄は名前を呼んでもらったことに驚きながらも、元気に返答し、保健室を出ていった。
一人残った魅黎は痣や傷だらけの手足を手当てし始めた。