傍にいる〜久遠のキズナ〜
□第弐話
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赤ん坊の本当の名前は、奴良リオン。あの奴良組二代目鯉伴様の実の娘。つまりは奴良組直系の姫にあたる。
玖煉は本当に今日、生まれたばかりらしい。双子として生まれたものの体が弱く、衰弱していて長くは生きられないだろう、と告げた父さんに鯉伴様夫妻は言ったのだという。
(「なあ、翼。この子をお前が育てちゃぁ、くれないか?」)
体が弱い、ということはいつ何があるか分からない。だから薬師一派の頭領である父さんの下(もと)で育てれば、万が一のときも対処しやすいだろうと。
(「俺はな、翼。こいつに生きてほしいんだよ。少しでも長く。色んなことを見てほしいし、学んでほしい。自分に嘆くんじゃなくて、誇りをもって生きてもらいたい」)
(「だから頼むよ、翼。この子が少しでも生きられるように、育ててやってほしい。大切な親友であるお前に、リオンを託したいんだ。一生のお願いだ、翼」)
鯉伴の思いが痛いほどわかってしまったんだ。父さんは言った。そしてあまりにも似ている行く末の境遇の玖煉を放っておけなかった、とも。だから引き取り育てる。
雪宵玖煉とは、父さんが引き取る際に付けた赤ん坊の名前。もし、いつか一人立ちするときのために必要だろうからと教えられた。
(「俺にしてはよく考えた、いい名前だ。珀夜もそう思わないか?いつかは一人立ちするかもしれないからな。きっと、玖煉は綺麗で礼儀正しい子に育つぞ。いや、育てるの間違いか」)
これは後から聞いた話だが、玖煉は本家ではその存在を秘匿されているらしい。それもあって、新しい名前が付けられたんだと思う。詳しくは語られなかったが、事実を知っているのは鯉伴様夫妻と父さんと俺だけ。残りは本家のものも初代のぬらりひょん様ですら、知らないという。
あまりにも幼い嬰児(みどりご)。生まれたばかりの身で重たい運命を背負ったこの子を…。
同じ境遇で、行く末も同じであろう玖煉を護り、支えていくと俺は心の中で誓った。
(「…いつかは、本家に戻れるといいな。だからそれまでは頑張って生きような、玖煉。俺のかわいい義娘(むすめ)…」)