お伽噺ー零ノ域ー

□金木犀に包まれて
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「美味しい?」

「(コクコク)」

「ですよね〜」

「え、ちょ、凍花?子供手懐けるの得意だったのか…?」

「は?まあ、それなりに。常連客の子供からもよく注文が来ますからね」



よくお守りさせられてました、と千歳ちゃんの柔らかな頬に付いた種を取りながらそう言えば、宗方は本当に驚いたようで目を丸くした。

なんだよ私が子供嫌いだとでも思っていたのか。



「…千歳、凍花の膝の上は心地良い?」

「うー…やさしくて温かいよ睦月お兄ちゃん」

「羨ましい(ボソッ」

「でもなんかごつごつしてる」

「ゴ、ゴツゴツ!?」



何か変な単語が聞こえて膝を見れば、私の大声に驚いた千歳ちゃんがビクンと体を大きく震わせた。ヤバい、と思い頭を優しく撫でる。



「(私はそんな筋肉質だったのか…)」

「なんか帯のところが凸凹してて、頭がじゃりじゃりする」

「帯?何でしょう……あら、お手玉入れてるのすっかり忘れてました」



そうだそうだと思い出して山吹の帯の中から四つのお手玉を取り出した。

桜、椿、菫、藍と色とりどりで中には黒澤家に用意して頂いた小豆を入れてある。どのお手玉もくず布を使っているから経費は一切かかっていないお財布に優しい仕様だ。

おっと、これは秘密だけどね。



「はい。千歳ちゃんにプレゼントー」

「わ…かわいいっ!このお手玉千歳にくれるの?」

「うん。お兄ちゃんたちに頼まれて作ったんだよ」



背中から抱き締めるように、千歳ちゃんの小さな手の上にぽとぽと落とす。ピンクや黄色のカラフルな玩具が、千歳ちゃんの手に収まっていく。

千歳ちゃんは目をキラキラさせながらお手玉を見つめていた。

まるで価値のある宝石のように。



「お兄ちゃんありがと!見て見て、かわいいのっ」

「わー本当だね!可愛い」

「うん、可愛いね。でもね千歳、先にお手玉を作ってくれた凍花にお礼を言わなきゃ」

「お手玉ありがと、お姉ちゃん!」

「いいえ〜」



余程嬉しかったのか千歳ちゃんはピョンと私の膝から降りると、両手いっぱいにお手玉を乗せてお兄ちゃんズに見せびらかしに行った。

本当にさっきまで人見知りの子だったのか、と疑いたくなるくらいのお転婆っぷりだ。

思わずふふっと笑みが溢れる。



「人付き合いが苦手なんじゃなかったのか?友達だってあのー…なんだっけ、赤穂?ってやつしかいないんじゃ」

「…取り敢えず赤穂って誰ですか。もしかして壬生の事言ってる?浪士って意味では惜しいですけど。ボケ方が大雑把です。人付き合いが苦手ってだけで別段人相が悪いわけでもないんですから、他人と会話くらいしますよ。あと今の面白くもない冗談、壬生に密告しておく」

「いや、凍花は自分が思ってるより目付き悪いよ?そして壬生には密告しないであいつのナイーブなハートを悪戯に傷付けたくない」


「ごちゃごちゃうるさいなド近眼なんだよ馬鹿宗方!ほっといてくださいよ!」


「いてっ」



コンプレックスをあっさり言われて腹がたったから宗方の左手の小指目掛けて拳を降り下ろした。うっ、と渋い顔をして小指を押さえる。ピンポイントできた衝撃は中々激痛を誘うようで。

ざまぁと言わんばかりにベッと舌を出してスッと立ち上がった。

宗方は涙目で私を睨む。



「お前なぁ〜これくらいで怒るなよ。凍花にはそのキツそうな目が似合ってるって」

「もう一発食らいます?」

「…宗方って時々一言余計だよね」

「時々だったら良かったんですけどね」



はぁ〜と盛大に溜め息を吐いて眉間の皺を揉む。



「いつまで痛がってんですか。そろそろおいとましますよ」

「う〜〜〜……」

「え、もう帰っちゃうの?」

「仕事も残ってますし、突然お邪魔してしまったので長居は出来ません。次から来るときは手紙を出しますね」

「そんな、気にしなくてもいいのに…」



千歳ちゃんを抱き締めながらしょんぼりしている樹月くんに私は曖昧に笑った。名家に生まれた以上、礼儀作法は気にするもの。

少し赤くなった小指をふーっと息吹きかける宗方に目をやり、玄関へ向かおうとしてピタリと足を止めた。

ああ、いけない。



「忘れるところでした。はい、睦月くん」

「これ……」

「約束の香袋です。袋だけの予定でしたがやはり寂しいかなと思いまして、私が普段使っているやつを入れておきました。その場しのぎで入れたつもりなのでいつでも換えてください」



ふわりと金木犀の香りが広がる。

落としてはいけないと思って首に掛けられるよう、赤い紐が付けられた桜の香袋。

これひとつで名前を間違えた事、許してもらおうだなんておこがましいことは思ってないけど



「これでもう、睦月くんを樹月くんと間違ったりしませんよ」

「凍花…」

「金木犀仲間ですね」



そう言って私は

笑った。



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