お伽噺ー零ノ域ー
□蒼白い、
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薄色に儚く舞う六花の袖が、私を拒絶するようにはためく。
気にしないで、だなんて言っていたけど絶対に気にしてる。声音はそんなに怒ってないけど、雰囲気で分かる。
「む、睦月くん…」
「なに」
あぁああ確実に怒っていらっしゃる
謝るのって簡単だけど、機嫌を直して貰うのは何倍も難しい。それを痛感する。
私はすっかり弱り果ててちらっと宗方と樹月くんを一瞥すれば、宗方はファイトと拳を軽く突きだしてるだけだし樹月くんは困ったように苦笑していた。
…自分で何とかしろってことですか
無意識に鎖骨付近の袂を撫でる。不自然に膨らんでいる部分からふわっと香りが広がりハッとした。
「睦月くん!」
「井戸に着いたよ」
「は、え…え……?」
「あれがそうか!確かに立派だ……っ!もっと近くに行こう!」
「え、ええぇぇぇ…」
意を決して切り札を出そうとしたところで本日お目当ての槌原家の井戸に到着してしまった。険悪ムードに関わらず宗方は頬を紅潮させて井戸まで一目散に駆けていく。
言葉を遮られてしまった私はぽかーんと立ち尽くすばかり。
「(せ、折角仲直りしようと思ったのに……タイミング悪すぎだよ)」
「凍花さん、凍花さん」
「んん…」
袖をちょんちょんと引っ張られ振り向けば、樹月くんが優しい顔で私を呼んでいた。
…やっぱり、そっくり。
双子だから仕方ないんだけどさ。これからも二人を見分けられるか自信が無くなってきて、やるせなくなってしまう。
私の表情からそれを勘づいてしまったのだろう、樹月くんは袖を強く握り締めてじっと私を見つめた。
「睦月と仲直りしたいんでしょ?」
「は、はい……」
「僕が少しだけ協力してあげる。……可愛い弟が素直になれないのを見るのは面白いけど、そろそろ、ね…」
「?…何か言いました?」
「ふふ、何でもないよ」
口許を六花の袖で覆い、にこにこしながら樹月くんは睦月くんと宗方のいる井戸に向かった。
袖を掴まれたままの私は、されるがままに井戸へと引っ張られていく。
「宗方、どう?何か感じるものでもあった?」
「ああ!この奥底が見えないくらい深い感じといい、凸凹とした井戸の作りといい…時代を感じるよ。感動するなぁ」
「井戸の何が楽しいの?」
「この古さが良いんだ。先代の故人達が築いた建造物…そこには歴史があり遺志がある。故人達はどんな想いでこの井戸を作ったのかと想像するだけでわくわくするんだ!」
「子供みたいですねぇ…」
目をきらきらさせてはしゃぐように調べ回る宗方に、ふぅと息を吐きながらも微笑んだ。
「(何だかんだ宗方のこの純真さに、救われる時もあるんですよね…)」
「凍花も見てみろよ。時代の香りがするぞー!」
「…時代の香りってなんですか」
はしゃぐ宗方にしょうがなく井戸に近付いて中を覗き込む。
想像以上に底は深くて暗くて、まるで奈落に続く穴のようだと思った。水音一つしないところがまた薄ら寒い。
こんなに深かったら昔に人の一人や二人は落ちてそうよねー……
…馬鹿馬鹿しい。そんなことがあったら大事じゃないの。
私は半眼で溜め息をつき井戸から顔を上げ宗方に場所を譲ろうとした瞬間、手首にひやりとしたものを感じた。
不思議に思い井戸を振り返った瞬間
ズッ――――
「!?」
何かに手首を引っ張られて体が宙に浮かんだ。
息をする暇もなく私の体は井戸の中に引き摺りこまれる。
ハッと目を凝らせば、さっきまで何も無かった私の腕には無数の青白い腕が絡まっていた。
ゾクッ
「な…っ!」
「凍花!何してんだっ」
「宗方っ!」
間一髪の所で宗方が私の腰に腕を回し、私は難を逃れる。
ドッドッドッと痛いくらい心臓が狂い跳ねていた。
「(あれは見間違い…っ?そんなはずない!だって私は何かに力強く引っ張られたせいで落ちそうになって…!)」
「…凍花、お前凄い冷や汗だぞ。井戸に落ちかけるし、仕事し過ぎて体力に限界が来てるんじゃないか?」
「違っ、井戸に落ちたのは……っ宗方には見えなかったの!?」
「凍花落ち着け。お前は手を滑らせて井戸に落ちたんだよ」
「嘘!だってさっきまで井戸の淵、全然濡れてなかったわ!」
ほら!と井戸の淵を見ると、そこはびしょびしょに濡れていた。
なんで、さっきまでは渇いてたのに……っ
ドッ…ドッ…ドッ…
「なん、で……」
「……宗方、凍花さんの顔色があまり良くないからウチで少し休んでかない?ここからだと黒澤家より近いから」
「そうだな。そうするか、凍花」
「あ…いや…迷惑はかけられませんよ…」
「…どうせその体調で黒澤家に帰っても迷惑なんだから、黙ってウチに来ればいいでしょ」
「睦月くん…」
まだ納得いかないけど、皆の言葉に渋々従うしかなかった。
宗方に抱えられて来た道を戻る。普段の私なら自分で歩けるよ!と怒っているところだけど、何故か今はそんな気力がないくらいぐったりしていた。
私が見たのは
夢…だったの…………?
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