伊予の戦女神

□鬼灯の実
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神子一行が熊野に訪れて数日、各々が適度に英気を養いながら熊野川の水が引くのを待った。

――しかし、熊野川の氾濫は一向に収まる気配をみせなかった。



「川の水はまだ引かないのか?いったい、ここで何日待てばいいんだ!?」



我慢の限界に達した九郎殿がついに口を切った。

いつかこうなることは予想していたが、まさかこんな早いうちだとは思っていなかったので呆れながら手元の針仕事に視線を戻す。今日は近所の人から針仕事の手伝いを頼まれており、できるところまで手伝うという約束でこうして朝からいそいそと手を動かしていた。将臣が隣で「器用なもんだなー」と感心しながら縫い目を目で追っている様子が面白くて、作業速度をあげてその反応を楽しんだ。



「焦っても仕方ないよ、九郎さん。だけど、それにしてもちょっと変だね」

「うん、熊野を巡る、水の流れがおかしい。待てば引くとも限らないよ」



望美と白龍



「町に行って、人に聞いてみようか」

「いってらっしゃーい。昼食は一応用意しておくけど、無理して帰ってこなくていいから」

「何呑気なこと言ってんの?お前も行くんだよ」

「やだ。見ての通り僕は仕事中だよ」



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望美「結局、詳しいことわからなかったね」

将臣「こうしてても始まらねぇな とりあえず、現地まで行ってみようぜ?」
「行ってみりゃ、少なくとも何が起きてるかくらいわかるだろ」

望美「うん、だけどどうやって行けばいいのかな?」

譲「熊野川が氾濫してるから、船は出せないでしょうね」

敦盛「熊野灘沿岸を北上して西へ路をたどれば…」
「熊野川の中ほどに出られる」

望美「あっ なるほど 敦盛さんって、熊野に詳しいんですね」

敦盛「あ、ああ…私は、熊野で育ったから…」

朔「熊野は、京ともつながりが強いの」
「私たちのように、京から訪れる人も多いみたいね」

行商人「へえ、あんたたち京から来たのかい」

望美「はい」

行商人「だったらさ、京で評判の白龍の神子って見たことないかい?」

望美「えっ?」

朔「白龍の神子がどうかしたんですか?」

行商人「なんでも熊野の頭領が白龍の神子って姫君に一目惚れしたらしいんだよ」
「どんな美人なんだろう?きっと、しとやかで上品な姫君なんだろうね」

朔「まあ、ふふっ その話、詳しく教えてもらえませんか?」

行商人「あいにく、あたしも詳しいことは知らないのさ」
「何か耳に入ったらあたしにも聞かせとくれ じゃあね」

望美「白龍の神子が……上品なお姫様??私のほかにも白龍の神子がいるのかな」

白龍「いいや、私の神子は、あなただ 他にはいないよ」

望美「でも、噂になってたのはしとやかできれいなお姫様なんだよ」

白龍「ほらね やっぱり神子のことだ」

望美「ええっ?」

九郎「熊野の頭領は、一応お前に好意的なんだな」
「だったら…」

望美「えっ?なんですか? 九郎さん」

九郎「お前、本宮に行って頭領に会ったら、しとやかな姫君で通せ」
「これから当分の間、おとなしくしててくれ」

望美「ええっ…!?」

九郎「熊野別当がうまくだまされてくれるといいんだが」

望美「いったいどういうことですか!?」



無言でヒノエを見る



〜〜



朔「勝浦で聞いたとおりね これじゃ、この先へ行くのは無理だわ」

望美「本宮大社に行くには、ここを通らないといけないんだよね?」

譲「ええ…困りましたね それにしても変だな」
「まわりはいい天気なのに、ここだけ、こんな荒れ模様だなんて」

望美「ちょっと見てみよう」

白龍「だめだ、神子 それ以上川に近付いてはいけない」

望美「えっ?」

白龍「何かいる 神子に害意を持ったものが」

望美「うわっ!?」

リズ「皆、下がりなさい!」



安全な場所まで下がる



将臣「いったい、どうなってんだあの川は?」

敦盛「急に水かさが増したように見えた…」
「白龍が感じ取った気配とも関係があるのだろうか?」

景時「う〜ん、でもさ この辺りには、怨霊とかいなさそうだよね」

譲「この辺りではない…… もっと上流に原因があるのかもしれませんね」

弁慶「熊野川の上流というと熊野路の先にあたりますね」

九郎「とりあえず、いったん熊野路まで引き返すしかなさそうだな」

望美「そうですね、戻って何が起きているのか確かめてみないと」
「熊野路かあ… 今まで来た道を引き返すなんて、遠いな」

リズ「強行軍になるが、一気に熊野路まで戻るほうが早い」

望美「一気に熊野路まで…?」
「そうですね 一気に戻りましょう」

「宇鷺さんはどうしますか?勝浦を通り過ぎることになりますが」

宇鷺「ついてくよ。特にすることないしね」
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