伊予の戦女神

□空蝉
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奥州まで勧進帳:秋
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基本は史実通り
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紀ノ川逃避行_銀:秋
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基本は史実通り
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私たちは、九州を一回りして四国の南を通り、熊野に上陸した。
そこからすぐに平泉へと向かう準備を始めたけれど、旅支度や情報を集めている間に時間ばかりがすぐに過ぎていった。
熊野の烏の情報では、鎌倉方の追手は熊野から出る道を今にも塞いでしまいそうだという。
私たちは人に見つからないよう小辺路を通って、高野山へと向かった。
秋の紅葉、奥に寺、木々、宇鷺は女性の装いに
ヒノエ「じゃ、オレは悪いけどここまでかな」
望美「うん、案内してくれてありがとう」
「私たちが上陸したことで熊野は大変なんだよね ごめんなさい」
ヒノエ「謝るようなことじゃないさ オレも他に上陸する場所を思いつかなかったからね」
「本当はついていってやりたいところだけど…」
「今は熊野を放っておけない すぐに片付けて追いつくさ」
望美「うん…淋しくなるね」
ヒノエ「淋しいのはお前一人だけなんて思ってないよな」
「そんな可愛い顔を見せられると、奥州へ見送るのが惜しくなるだろ」
望美「ヒノエくんったら、こんな時まで…」
「まったく、もう… どこまで本気なんだか…」
ヒノエ「ふふっ、オレはいつも本気だって」
「たとえ必ず再会できるとわかっていても、姫君との別れはつらいものさ」
望美「必ずまた会えるよね」
ヒノエ「ああ だから、淋しいだろうけど、我慢しような、お互い」

宇鷺「何がお互い我慢しようだ、お前の一方通行だからさっさと失せな。しっしっ。そして二度と戻ってくるな」

ヒノエ「あのなあ、お前はもっと別れを惜しめよ。この中でも一応一番付き合いが長いだろ、俺ら」

スタスタと近付く。そして抱き締める。

宇鷺「…お前こそ、もっと自分の立場を大事にしなよ。後戻りできなくなる前に身を引いておくれ」

ヒノエ「……!」

宇鷺「頼むから」

抱き締める腕に力を入れる。
付き合いが一番長い?そうだよ。

ヒノエ「めず、ら…しく…心配、してんのかよ」

宇鷺「そうだよ。ヒノエが嫌がるから普段は言わないけれど、多分ヒノエが思ってる以上に僕はヒノエのことを大切に思っている」

ヒノエ「ん……」

互いにそれ以上はなにも語らなかった。

ヒノエ「平泉までの旅路は厳しくなりそうだ 気をつけろよ」
「鎌倉方は包囲を固めているし、捜索隊もうろうろしてるだろ」
「「兵家の勢、先には伝うべからざるなり」と言うからね」
「姫君をお守りするには臨機応変に振る舞うしかない」
弁慶「肝に銘じておきますよ」
「…とはいえ、これから熊野の烏の情報を得られないのはつらいですね」
「景時が築きあげた源氏の諜報と情報伝達の制度を敵に回すんですから」
九郎「…………」
譲「景時さん…やっぱりすごいんですね」
ヒノエ「情報の収集能力なら熊野のほうが上だけどね」
弁慶「源氏の制度は軍の進行のための物資の調達や駅とも連動していますから」
「一度見つかると、すぐに遠くまで知れ渡ってしまうでしょう」
将臣「源氏の追手が多いといったって、千や二千だろ」
「こっちは少数なんだ 見つからずに通り抜ける方法はあるさ」
「万一、戦いになったら、一人も逃せない それだけ気をつければいい」
リズ「そうだな 戦いにならないことが第一だが、戦いとなったならば、迷いは禁物だ」
将臣「さすが、リズ先生だな 話が早いぜ」
「とりあえず、北へ行くには吉野から京を通って北陸道に入るしかない」
望美「わかった まずは吉野の里を通り抜けるんだね」
【向かっている途中】
御家人「ここを九郎義経の一行が通るやもしれぬ 気を引き締めて当たれぃ!」
雑兵「ははっ!」
将臣「さっそく、だな さて……どうするか」
弁慶「ここで騒ぎを起こすのは得策ではありませんね」
敦盛「だが、道は完全に塞がれている 別の道を探すか?」
弁慶「大事をとって今はそうしましょう」
「鎌倉の御家人といっても、九郎や僕たちの顔を知っている者は少ない」
「いざとなったら、通り抜けることもできるとは思いますが」
将臣「じゃ、遠回りするか」
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譲「こっちの道にも検問が敷かれてますね」
朔「厳重ね どの道も見張られているなんて」
望美「また他の道を探そうか?」
御家人「そこの者ら、待て」
望美「(しまった!見つかった…)」
御家人「我らは鎌倉殿のご命令で反逆者九郎義経の一行を探しておる」
九郎「…………」
御家人「その方ら、見たところ地方の者ではないな…」
「どこへ行くつもりだ?」
弁慶「僕たちはこれから、奥州、平泉へと向かうところです」
御家人「ほう…平泉へ?今まではどこにおったのだ?」
弁慶「船にて西国を回っておりましたが、熊野の港にたどり着いてしばらくその地に逗留しておりました」
望美「(弁慶さんっ!?なんで正直に答えるの?)」
「(きっと何か考えがあるに違いない…)」
御家人「ふうむ…西国を回っておったのか」
弁慶「僕たちは先の戦の亡骸を弔うために、巡回していた行脚層です」
「西国では多くの寺が焼かれ、修繕のための寄進を熊野に求めましたが…」
「まだ、足りません そこで、黄金のあふれる平泉へ寄進を願いに参るところ」
御家人「なるほど、その方らは行脚層であると…」
「西国を回ってきたならば、かの地の風聞を耳にしておるのではないか?」
「九郎義経が源氏の武士とは思えぬ怯懦さに、討ち取られたとの噂」
「その方ら、どう思う?」
雑兵「へぇ…そんな噂も?」
御家人「お前は黙ってろ 噂などないが…」
「九郎義経が誇り高き武士ならば黙ってはおれまい」
雑兵「御曹司のご一行なら、死んだと思わせたいかもしれませんぜ」
「それなら、遺体を見たというでしょう」
弁慶「さあ…僕たちには、真偽のほどわかりかねますね」
「僕たちは戦場で亡くなった方を弔っていただけですので」
「亡骸からは、どのような方であったかわからぬものです」
御家人「む、むむぅ…」
雑兵「(何の反応もしないや やっぱり関係なさそうだなぁ)」
弁慶「お疑いは晴れましたか?では、僕たちは先を急ぎますので失礼しますね」
望美「(ふぅぅ…… さすが弁慶さん、うまくごまかしてくれたな)」
雑兵「あれ…?あんた、神子様でねぇか?」
御家人「神子?神子というと、九郎義経が連れていたという、龍神の神子か?」
望美「(そんなっ!せっかく通り抜けられそうだったのに…)」
弁慶「この子が神子…だと?神子というのはどんな方なんですか」
雑兵「俺も遠目でしか見たことはないが…」
「たいそう剣の腕が立つお人だよ」
「壇ノ浦でも先陣を切って、平家の怨霊を切り伏せていたもんなぁ」
「まるで源氏をお守りくださる比売神のようだとみんな噂しとった」
弁慶「ふふっ、それはまたすごい噂ですね」
「いや、失礼」
「こんな可愛らしい子を見てそんな方と間違えるのが僕には不思議で」
「この子は、小百合の花のように可憐な舞姫ですよ」
望美「ええっ…」
弁慶「ねぇ、聞きましたか 僕の可愛い人」
「あなたはまるで龍神の神子のようだそうですよ」
望美「私が神子のよう…ですか?」
「や、やだなあ…もう そんなはず、ないじゃない」
将臣「そんはなずないくらい、誰が見たってわかるさ」
「おっちょこちょいだし、間が抜けてるし神子様ってガラじゃねぇな」
望美「な! そんなことないよ!そこまで言わなくたっていいじゃない」
将臣「ま、口を開かなきゃ、まだ似てるのかもしれねぇけどな」
雑兵「神子様っちゅうには…神々しさがねぇかなあ」
望美「(将臣くん、もしかして、わざと?)」
「(まあ、これでよかったのかなぁ)」
雑兵「うーん…こうして見ると、神子様らしくはないかのぉ?」
御家人「………… 何だ、人違いか?人騒がせな男だ」

「待て、そこの者。布を深く被って怪しいな…その布を取れ」

宇鷺「あたしのことですか?」

雑兵「うっひゃ〜美人。こっちの方がよっぽど神子様っぽいや」

宇鷺「あたしが神子様だなんて、ご冗談を」

雑兵「お前も行脚僧…には見えないが」

宇鷺「先の戦で夫を亡くし、地元に帰る所だったのです。しかし女の一人旅は危険だと…この方々が同行をお許しくださったのでございます」



袖で口元を覆い静かに涙を流す。涙が煌めくよう太陽がある方向に首を傾けるのも忘れない。それはもう美しく、さめざめと泣く。



宇鷺「こんなこと言ってはならないと存じておりますが、あたしは夫を奪った戦が憎い。あの人を、返して……っ」



「もうよい 先へ行け」

弁慶「では、失礼しますね お役目ご苦労様です」

将臣「さて……なんとかごまかせたか?」

弁慶「いや、無理でしょうね」

九郎「兄上の命ならば、このように簡単に通すなどありえない」

弁慶「こうも簡単に通すとしたら、それは――」

宇鷺「町人だろうがなんだろうが、切っちまえばいい。切った中に九郎義経がいればめっけもんってことか」

敦盛「追手が来る……な 神子、どうする?」

望美「ここで戦ったら…私たちの正体がばれてしまいますよね」

リズ「急ぐぞ。追いつかれれば戦いになる」



将臣「お前、意外と未亡人キャラが似合うんだな」

宇鷺「きゃら?…は分からないけど、そうかい?」

宇鷺「未亡人ね。まあ、有り得たかもしれないね」

知盛のこと

宇鷺「…なあ。僕のこと憎くないのかい?」

将臣「何だよ突然」

宇鷺「憎い奴の傍にいるのは辛いからさ。気がかりだったんだ」

将臣「それが不思議なんだけどよ、怒りも恨みもないんだ。あいつは…いつだったかな、三草山の時か。そんときからたまに穏やかな顔をするようになったんだ。心当たりないか?」

初めてあった時だ
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