伊予の戦女神

□深海のココロ
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源氏も平家との決着をつけるため、壇ノ浦へと軍を進めている。
今、指揮を執っているのは源氏の棟梁である頼朝さん。
最後の決戦のために頼朝さんも、ついに鎌倉から動いたのだ。
政子さんを伴って。



九郎「兄上自ら戦場においでいただくとは…」
「この戦、俺には任せられぬとお考えなのだろうか」

ヒノエ「まさか あんたは、福原を攻め落とした英雄だろ」
「将としての腕前を、疑う理由なんてないさ」

弁慶「九郎…疑われているのは君の実力ではないんでしょうね」

九郎「だが、他に兄上が自らおいでになる理由があるというのか?」
「平家に勝ったとしても、棟梁たる兄上に万一のことがあっては…」
「何のための勝利かわからん そうだろう、景時」

景時「そうだね…」

九郎「…景時、お前は兄上から何かうかがっていないのか?」

景時「…いや?何も聞いてないよ」

九郎「そう…なのか…?」
「景時、何か気がかりなことでもあるのか 今日はやけに口数が少ないが…」

景時「…………」
「九郎、今度の戦、オレは頼朝様の船に控えていようと思う」
「平家を攻めるのも大事だけど、頼朝様をお守りすることも大事だ」

朔「兄上!?私たちとは一緒に来ないのですか?」

九郎「仕方あるまい 景時が抜けるのは苦しいが…」
「兄上の御身をお守りすることが第一だからな」

弁慶「そうですね…やむをえません。でも宇鷺殿は共に出陣してくれるのでしょう?」



なぜ名指し?と不思議に思いつつ、弁慶殿の視線を受けて頷く。



宇鷺「ああ。河野水軍は鎌倉殿からご指名を頂いてないからね。僕の一存で九郎殿についていくよ。これからは鋭意、君たちに力を貸すと約束する。結構口出しする予定だからそのつもりでね」

弁慶「正式に宇鷺殿の助力を得ることが出来て心強いですね。どうぞお手柔らかに」

宇鷺「善処するよ」

景時「……」



あああ



九郎「望美、お前も異存はないな?」

望美「…………」

九郎「望美?聞いてないのか」

望美「えっ、私?うん、それでいいなら…」

宇鷺「望美ちゃん大丈夫?僕が君の手柄を奪っちゃうんじゃないかって不安になってるなら杞憂だよ。僕は怨霊を封印できないから」

望美「そ、そんなこと思ってないですよ!宇鷺さんったら」



少々気になるが



景時「じゃ、オレは行くよ」

宇鷺「気を付けてね〜」

景時「…宇鷺さん、は」

宇鷺「手向けとして教えてあげるよ」



じっと彼の目を見つめる



宇鷺「鎌倉殿に忠誠を誓ったのは河野『通清』だから」

景時「っ!」

宇鷺「ほら、早く行きなよ。鎌倉殿がお待ちだろう」







ヒノエ「ま、今は考えてる場合じゃないだろ」
「まずは、この戦に勝つのが先 違うかい?」
「単に平家の軍を蹴散らせばいいって戦でもないんだろ」
九郎「ああ、三種の神器の奪還を後白河院が求めておられる」
弁慶「三種の神器は皇位継承に必要なものですからね」
「三種の神器を取り戻さねば、院に面目も立たないでしょう」
譲「平家から三種の神器を奪還しないと、戦は終わらない…」
九郎「そうだ 問題は三種の神器がどこにあるかだが…」
敦盛「おそらく帝と同じ場所にあるはずだ 厳重に守られているだろう」
リズ「御座船だろう」
「砦のある彦島の周辺に軍船とともに御座船が集まっているようだ」
望美「彦島の御座船へ行って、三種の神器を手に入れれば、戦が終わる…」
「戦わずに、三種の神器を手に入れられればいいのに」
敦盛「難しいだろうな」
「平家ももののふの一門 たやすく、帝や神器を明け渡したりはしない」
弁慶「僕たちにできることは、一刻も早く御座船をおさえ戦を終わらせることです」
「戦の終結が早まれば、それだけ被害を減らすことにもつながります」
【壇ノ浦】
ヒノエ「ようやく平家の御座船までたどり着けそうだね」
九郎「あの船にいる平家の将を倒せば、この戦、源氏のものだ」
「心してかかれ――」
平家の武士「この先へは行かせぬ!ここで源氏に勝って、京へ攻め上がるぞ!」
白龍「平家も必死に戦っている 簡単には御座船へたどり着けないかもしれない」
望美「それでも――前に進まなきゃ、戦は終わらない」
源氏の武士「平家の御大将とお見受けする 名を名乗られよ!」
知盛「呉人…何を苦しんで西施を恨む」
雑兵「福原で見たことがあるぞ あ、あれは、平知盛だ」
源氏の武士「新中納言、平知盛殿であったか その首とって、名を上げん! いざ――」
「うわああぁぁっ!」
知盛「西施若し…呉国を傾くるを解せば、越国亡来又…是れ誰ぞ」
雑兵「ひぃっ!や、やっぱり、オレたちの敵う相手じゃねぇ」
望美「みんなっ、慌てないで!」
知盛「……ようやく来てくれたか、源氏の神子殿」
「そして…俺の西施殿」
望美「あなたは…?」
敦盛「知盛殿…。西施とは……一体…?」
昔の美人だ
宇鷺「西施といい空蝉といい…お前は僕に二つ名をつけるのが大好きだなぁ、新中納言平知盛殿。趣味なのかい?妙に趣があるから癪に障るけど」
知盛「お前のことを表すには……この世にある言葉では足りないくらいだ。さあ、楽しもうか」
ゆらりと構える
「碧海」。差し出された薙刀を握る
弁慶「その薙刀は……」
宇鷺「ヒノエ。碧海。もしもの時は僕を殴ってでも止めておくれよ」
ヒノエ「宇鷺」碧海「御意」
宇鷺「何人たりとも手出しは許さない。これは僕の戦いだ」

清盛「大丈夫か、知盛!」
知盛「叔父上」
清盛「お前が押されているなどらしくない。我が手伝ってやろう」
知盛「叔父上。あの女人を覚えていませんか?」
清盛「? 知らんな」
知盛「そうですか。…貴方は勝手な方だ」
「では俺も勝手をします」
黒龍の逆鱗を壊す
清盛「知盛!?なぜ!」
知盛「平家はもう終わりです。最期は潔く散ってこそ…武士だと思いませんか」
清盛「この裏切り者が!」
知盛「俺は叔父上に感謝しています。だからこそ、これ以上堕ちていく貴方を見たくはない」
清盛消滅
宇鷺「知盛、お前……」
知盛「さあ、続けようぜ」

戦闘、宇鷺勝利

源氏の武士「九郎様っ!戻られませ!鎌倉殿が、鎌倉殿の隊が還内府の急襲を受けっ…!!」
九郎「なんだとっ!」
敦盛「これが、知盛殿の狙いだったのですか…」
知盛「いや…?俺は最期の逢瀬を楽しみに来ただけさ」
「頼朝の首なんぞに…興味はない」
「楽しかったぜ…平家最後の宴の花には…十分すぎる」
宇鷺「…………」

知盛「お前の真実を語ってやろう」
昔平家で神子を召喚しようと目論んだ際に誤って宇鷺(前神子の子供)を召喚してしまう
その時に空蝉の愛称がついた
水を操り剣舞に長けていた宇鷺を周りは可愛がったが、ある日海賊に浚われる。宇鷺の無意識の抵抗により難破、記憶を失って伊予に流れ着く。
知盛「クッ。平家繁栄のためにと呼んだお前が平家滅亡に繋がるなんてな。皮肉な話だ」
宇鷺「…僕は六波羅で清盛殿と会ってるんだぞ。その時なぜ何も言わなかった」
知盛「さあな。父上は神子ではないお前に興味が無かったのかもしれない。さっきも覚えておいでではなかったようだしな」
宇鷺「そうか。そうだな…」
知盛「そんな顔をするな。俺はお前を愛していた」
宇鷺「は…?」
ついに頭がいかれちまったのかと思った
知盛「クッ。愛していると言ったんだ。海淵よりも深く、焦熱地獄の炎よりも熱く、小夜嵐よりも激しい。この激情を『愛』と呼ばずに何と呼ぶ?」

強い眼光に射抜かれて息を忘れる。

宇鷺「こんな…時に冗談を……」

首を掴まれる

宇鷺「うっ」
ヒノエ「宇鷺!」
知盛「邪魔をするな」

剣をヒノエに投げる

知盛「ひとりで逝く予定だったが…気が変わった。お前も連れて逝くことにしよう」

ヒノエ「止めろ…止めろー!」

腰から上が海に投げ出される。
宇鷺、知盛に首を掴まれながら入水。
キラキラの海面から離れていく。

宇鷺「(結局…僕の本当の居場所は何処にもなかったんだ。もう…この命、ここで費えてもいいか…)」

海の中だからか、首に圧迫を感じない。眼前いっぱいに広がる知盛はどこか穏やかな表情をしているように見えた。頬を撫でる。

宇鷺「(なんでお前は僕を愛した?僕はお前と過ごした時間を覚えていないのに)」

少しでも覚えていたら。
もしかしたら心の拠り所くらいにはなったかもしれない。

弁慶「行かせません!宇鷺さん!」

弁慶が宇鷺に向かって腕を伸ばす。弁慶の顔を一瞥して考えがかわった。宇鷺も手を伸ばす

宇鷺「(それでも僕はまだ生きたい!)」

宇鷺の顔を見て知盛は首を引っ張って口付けし、宇鷺の体を上に押しやって落ちていった。
二人は手をつなぎ、意識が薄れかけている宇鷺を弁慶が引っ張って海面に出る

宇鷺「ぷはぁ!はあ!はあ!げほっ」
弁慶「はあ、はあ…宇鷺さん、無事ですか?」
宇鷺「げほっ。はあ、お陰様で。はあ、なんとか、はあ、助かったよ…はあ……」

弁慶殿の首に回していた腕がずるりと滑る。腰を掴む手に力が籠った。

碧海「宇鷺様!ご無事ですか!」

大声をあげる元気がなくてこくこく頷く。
一旦安堵の表情になった碧海の後ろからヒノエが顔を出した。

ヒノエ「よかった…!今縄を持ってくるから待ってろ!」

待っている間水底を覗くように見つめる。

宇鷺「…………」

こんな静かな場所にあの煩い男がいまも沈んでいってるのだ、と思うと。永遠に会うことが叶わないのだと思うと、胸が張り裂けそうになる。自分も追ってしまわぬように弁慶殿に体を押し付けた。腰に回る腕に力が籠ったのが伝わる。安堵した。

「…弁慶殿。あいつ、狂った男だと思っていたけど、引き際は潔いんだな。もっと生に執着してると思ってた」

「…………」

「少し見直した。尊敬するよ」

言葉とは裏原に涙が出てくるのは何故だろう。溢れた涙が海面に飲まれる。

弁慶「僕たちの戦いはまだ終わっていません。まだ動けますか」

宇鷺「…ん。大丈夫」

紐が降りてきて掴む。上がろうとしたところで「待って」と弁慶殿を掴んだ。

「別れの挨拶をしたいんだ」



「知盛。心も体もやることはできないが、最上級の敬意として僕の願いをくれてやるよ」

弁慶の腕に頼って匕首を取り出す。

弁慶「何を……」

「悪いけどちゃんと僕を掴んでておくれよ」

髪を切り落とし海に捨てた。

宇鷺「長い髪は僕の人生(すべて)だ。長さは僕が生きてきた証だ。この世に唯一僕の年月を刻んだ歴史だ。お前に捧げるよ、平知盛」

何者でもない僕のたったひとつの持ち物。

「僕の生涯で最上の好敵手。どうか安らかに」

金の髪がゆっくりと落ちていく。

弁慶「……さあ。先に上ってください」

「いや、僕は最後でいいよ。僕の方が海面に近いし」

「あなたが知盛殿の後を追いかけてしまわないか、心配で心が千々になりそうなのです。僕を哀れと思うなら、どうか先に」

「わ、わかったよ」

仕方なく先に上る。正直助かった。

「(生きたいと思ったのは嘘じゃない。でも、僕が僕でいられる時間がもう……)」

上がる。

ヒノエ「……」

ヒノエの視線がいたい。

源氏の武士「九郎様!どうぞお急ぎください!鎌倉殿が!!」

九郎「わかっている!宇鷺…いや、通信!」
宇鷺「皆まで言わなくていいよ。さ、行こうか。赤間関ね」
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