伊予の戦女神

□伊予の戦女神
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概要
次の話
田口の話からスタート
屋島サイドに切り替わる(譲話の方がいい?)
行宮は空、安徳帝に逃げられる→壇ノ浦
宇鷺、忠盛と戦う?総門で
壇ノ浦、彦島の砦に逃げる
船持って源氏に合流、改めて名乗り源氏側につくことを誓う



すぐに源氏と合流するつもりで出陣しかけたが、
田口が攻めると聞き戦の準備をする

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ぬるぬる波打つ海面を気持ちよく掻き切って船が進む。飛び跳ねる白い飛沫の音に耳を澄ませるように目を閉じる。



「機は熟した。そろそろだな四郎」

「そうさね」



天気と海の様子を確認しに回っていた頼冬が戻り、隣に立つ。

あと少しで終わる。



「(僕の役目も……)」



木枯「失礼致します宇鷺様、頼冬様!大変です。田口が攻めて来ました」



空気が一変する。



「くそ!なんでこんな大事な時に!」

「大事な時だからこそだろう。どこまで僕たちの邪魔をすれば気が済むのかねぇ…腹立つ!」



柱を殴る
なら、こちらで多くの平家を捌いてやろうか?



「ふむ悪くない考えだ。寧ろそれが最上だそれしかない。しかしそちらに感けて、目的を完遂出来ないのはよくないな。だよね?頼冬」

「いやいや、お前の頭ン中で終結されても俺にはさっぱり分からないから。嫌な予感はしている」



にやりと笑う



「あの御方にもう一つ手土産を増やさないかい?定められた時間の内に終わらせなければいけない刺激的な賭けだよ」



あああああ



「どうせなら徹底的に気持ちよく行きたいからな。やってやろう!」



碧海の肩が少しだけ揺れる。

源氏への戦力を避けるために河野は源氏側だと明言し、
敵の多くを伊予に向ける
戦闘のち、行宮が空になっている事実を知った九郎一行と合流する



総門



忠盛「貴殿は!」

宇鷺「やあやあ平忠盛殿、此度はこちらから瀬戸内海を渡り参りました!お手合わせ願います!」



勢いのままに滔々と叫び、是非を問う前に忠盛殿に切りかかる。忠盛殿はくわっと両目をかっ開いて僕の一閃をかわした。



宇鷺「っああ!この一手を避けるなんて流石です」

忠盛「やはり貴殿は只者ではなかったのだな。そちら側についたのなら遠慮なくその水仙、手折らせてもらおう!」



忠盛殿の攻撃は気持ちがいい。



宇鷺「久しぶりに血が滾るねぇ!」



合流




宇鷺「おや、間に合ったみたいだね」



三草山での炎の切れ端が脳裏に浮かぶ。

あの時より幾分も男前になったであろう傷だらけの顔を懐かしい面々に晒す。ヒノエの瞳がやけに美しく見えた。



ヒノエ「馬鹿。全然間に合ってねーから」

「ンな事言ったって僕だって急いで来たんだよ。仕方無いから獣道走って此処まで来たってーのに。…んっ?ああ、今回は違った。海から来たんだった。あははは!」



首を傾げて思案する振りをしてから言葉の矛盾に大笑いする一人劇を行う。



望美「宇鷺さん…っ!?」

宇鷺「そんな顔をしないでおくれ神子。安徳帝には逃げられてしまったが、壇ノ浦へ行く前の源氏御一行様に会えたのは、本当に幸運なんだ。僕は間に合ったんだ。もう無理かと思ったよ」



僕の言葉が理解できないのか、幼児のように目を潤ませて首を振る望美ちゃん。悪いが今は細かく説明をしている暇はない。分不相応の見栄は張るもんじゃないね、と苦笑する。

望美ちゃんの奥でまるで幽霊でもみたかのように目をかっぴらいてる弁慶殿に視線をやってありったけの悪い笑顔を見せた。



宇鷺「やあ弁慶殿。残念だったね?」

弁慶「…………」



なぜ、と言わんばかりの顔も



頼冬「四郎。悪いが知人への挨拶は後にしてくれ」

宇鷺「はいはい。分かってるよ」



幾度も迎えた困難な場面。飄々と片付ける頼冬ではあるが、お偉いさんの前だと緊張するらしい。顎を引きつつも九郎殿から目を離さない。



ヒノエ「お前村上頼冬!なんでここでお前が……まさか!」

頼冬「やあやあ、熊野水軍の頭領殿。君も四郎と同じようなことをしていたのか。あ、ごめん嘘嘘。四郎の覚悟と君の覚悟はまるで違うから一緒にしたくないな」

ヒノエ「なんだとっ!」

宇鷺「年下いじめは止めな。イイ大人が」

「いだ!だって四郎!」



口が過ぎる頼冬の頭を拳で殴っても尚罵倒を続けたそうな顔を睨む。親を殺された時から修羅の道を歩んできた僕たちと、源平どちらとも親和し今どちらに着こうかと悩める贅沢な立場にいるヒノエ。昔はそう仲が悪かった訳ではないのに、残酷な運命が袂を引き裂いた。

左手で頼冬の目を覆う。ぴくりと肩を震わせたけど、棘を吐くお喋りな口は閉ざされた。



宇鷺「ヒノエ。悪いけどちょいと黙って見てておくれ。今から僕と頼冬が格好つけるところだからさ」



右手でぽんぽんとヒノエの頭をたたく。はっと灼熱の瞳が僕を見た。ヒノエには僕の目的を伝えていない。けれど、心の奥底では気付いていたはずだ。ヒノエという男は、何も為さない人間を傍に置いておくほど暇な奴ではない。

…だからそんな目で僕を見つめているのだろう?

よく見てて御覧。

3年前、弱り果てた僕を匿ってくれたお前の選択が正しかったということを今証明してあげる。



弁慶「四郎に村上頼冬…まさか……?」



僕たちが呼び合った名前に聞き覚えがあるらしい弁慶殿が、信じられないとでも言いたそうな顔で僕を見る。その視線を悠然とかわし、九郎殿の前に立った。

紫の上衣を翻し、片膝をついて頭を垂れた。



宇鷺「御前失礼仕る、源九郎義経様。私は伊予国河野水軍の将、河野通清が一子河野四郎通信。この名ではお初にお目にかかります」

頼冬「私は村上水軍の将、村上清長が一子村上頼冬。お初にお目にかかります」



僕の平伏に倣い、頼冬も片膝をついて頭を垂れる。誰も何も言わない。構わずに口上を続ける。



宇鷺「我々伊予水軍並びに村上水軍は源氏の勝利に貢献すべく、船三百隻と三千の兵を率いて馳せ参じました。我々にも何卒お役目を頂戴したく申し上げます」



言った。

やっと言えた。

冷や汗がどっと湧き出る。僕はこの瞬間をずっと待ち望んでいた。渇望していた!亡き父上の雪辱を果たし、父上の望みだった伊予水軍が源氏に与して此度の戦に勝利すること。そして一族に繁栄をもたらさん!この時の為に僕も頼冬もただひたすらに現状に耐えて準備を進めてきたのだ。

それが、今!



「…………」



は、と短く息を吐く。

九郎殿はまだ何も言っていないのに、歓びで身体が震えている。ドクドクと暴れて騒がしい心の臓を落ち着かせようとしたけど、どうも上手くいかない。



「どういうこと…?宇鷺さん……」



呆然とした様子でそう問うた望美ちゃんの声が、緊張している僕の耳朶を心地よく舐る。

その声でようやく平常を取戻し、微笑んだ。



宇鷺「要約すると、僕たちも源氏(仲間)に入れてってことさ望美ちゃん。そしたら源氏に船も水夫も提供しますよと」

九郎「お前が……河野通信だと?」



ようやく九郎殿が声を絞り出して言葉を紡ぐ。

望美ちゃんに話しかけている間も頭を下げていたから九郎殿がどんな顔をしているのか分からないが、空気で彼が驚いているのが伝わる。




「顔を上げろ、河野通信。村上頼冬」



顔を上げる。じっと睨まれた。



九郎「……その顔は冗談を言っている顔ではないな。こちらとしてはあの河野水軍と村上水軍が傘下に入ってくれるのは有り難い。しかし」



九郎殿的にはなぜ早く名を明かさずに傍にいたのかが気になるんだろう。僕の心理を推し量って直接聞いてこないけど。

語ると長いので後にしてほしい、と口を開いた刹那、



「宇鷺様」



柱の影から飛んできた控えめな碧海の声に眉を顰める。



「東の沖にて安徳帝と尼御前の御姿を確かめました。いかがなさいますか」



九郎殿の前だというのに、お構いなしに相変わらずの無表情を張り付けて淡々と告げる。



宇鷺「おや、意外と近くにいるじゃないか。追えば間に合いそうだ」



完全に逃がしたと思っていた。



「どうする?九郎殿」

九郎「決まっている!すぐに向かうぞ!」





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