伊予の戦女神

□其々ノ刻
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「く…っ、ふぁ〜…」



朝の眩い陽射しを浴びて欠伸を噛み殺すと、グッと関節を伸ばした。何ともまあ清々しい朝だ。愛らしい小鳥たちが唄を歌い暖かい風が微睡みを誘う。

睡魔に襲われないよう目をごしごし擦ると、ずれかけた衣を直した。

暇。とてつもなく暇だ。



「あー…こうも暇だと死んじまうよ…」



今朝はしっかり譲の作ってくれた飯を食べたし、塗籠に籠って書物も読んだ、ヒノエの鍛練にも付き合ってやった。やることはやってしまい、僕は今かなり暇を持て余していた。



「何か面白いことでも…」

「それより白龍、なんなんだ?その星の一族ってのは」

「(……譲の声?)」



梶原邸で一番美しい庭のある方向から譲の訝しむ声が聞こえ、確かめるべくそちらに向かって歩みを進めた。

もうこの際普通のお喋りだけでいいから混ぜてもらおう!

角から足袋をスッと出した瞬間



「神子に仕える一族」

「(……!)」



咄嗟に足を後ろに引っ込め、サッと柱に身を潜ませた。気になる言葉が耳に入ったからだ。白龍の口から紡がれた『神子』という単語…その単語で無意識にその行動を起こしたのだろう。



「(先程見ていた書物には神子に仕える一族の話なんてなかった……なんだ、星の一族とは)」



好奇心に支配されるがままに、出来るだけ息を殺して様子を窺う。

庭先では僕の存在を知らない望美ちゃんが首を傾げていた。



「八葉とは違うの?」

「八葉は、神子を守る。星の一族は神子に仕えるよ」

「うーん…よくわからない。譲くん、わかる?」

「いいえ、生憎誰か翻訳してくれる人を連れてきた方がいいですね」



白龍のひどく抽象的な言葉を解釈出来ずに、頭を悩ませている少年少女。

そんな二人のところへ助け船が現れたようだ。



「どうしたの?」

「あっ朔、影時さん。よかった、ちょうど聞きたいことがあって」



神子が安堵の表情を浮かべ見つめた先には、梶原邸の主である影時殿と妹御・朔ちゃんがいた。朔ちゃんは優しげに「なあに?」と聞き返している。
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