伊予の戦女神
□紅い蝶、金の蝶
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その言葉通り、繊細な装飾具が所狭しと並べられている店頭に立った宇鷺は、譲をそっちのけで瞳を鋭くさせて品定めを始めてしまった。
その姿はさながら、目利きの利く貿易商人のようでつい雰囲気に飲み込まれ話しかけそびれる。
「……」
「宇鷺さん…」
「何ぼけっとしてんだい。お前もさっさと望美ちゃんへの土産くらい探しな」
「はあ…」
ますます訳がわからない、と言いたげに目を丸くして中身のない返事を返す譲。それに気付いた宇鷺が、ついと鮮やかな装飾具を指差す。
「おやおや気のない返事だねぇ。女人に贈り物の一つくらい送らなきゃ本当に望美ちゃん逃げていくよ〜?」
「な……っ」
大輪の菊が描かれた袙の扇を隅々眺めながら、煽るようにいたいけな青年を挑発する。チラッと横目で様子を見れば、グッと眉をしかめて何か言いたげに口を開いたが、やがて品物に目を向け始めた。片っ端から首飾りや扇を手に取っている。
宇鷺はこっそりほくそ笑んだ。
「(譲の所有物(アカシ)として望美ちゃんに装飾具を贈っても、罰は当たらないさね…ふふ。害虫駆除♪)」
「ちょいとそこのお兄さん」
「あ?」
せっかく良い気になっていたのに邪魔されて腹が立ったから、愛想の欠片もない顔で声のした方を見る。
不粋なまでに視線を投げつけると、そこには少し小柄な店の者が両手を擦り合わせながら宇鷺を見上げていた。
「この笛いかがですか?上質な漆で塗られた滅多にお目にかかることのできない名品『蝶乱舞』!紅と金で描かれた二匹の蝶は今にも舞いそうなほど鮮やかに……っ」
「あーうるさい、笛なんて吹けないし。要らない」
「いいんですか?後悔しますよ〜。こぉ〜んなに良い笛滅多にないのに…」
「だから要らないってば」
面倒臭いのに捕まったーと他人事のように考え、思ったより小柄の商人を見ながら溜め息を吐く。
しっしっと手で追い払う仕草をしたが、商人は動くつもりがないらしい。なかなかその場から立ち去らない。
「かっこいいお兄さん、この笛はあんたに買ってほしいって言ってますよ」
「…ほう?」
「この蝶なんてまるでお兄さんみたいじゃないですか。優雅に、艶やかに舞う金の蝶。美しさの中に儚さを漂わせる…孤高の蝶」
ピクッ、と片眉を動かす。
何かに突き動かされたように無意識に笛に手を伸ばしていた。
漆塗りの黒笛。
その暗さは闇の如く、絡み合った二匹の蝶は闇の中をもがく憐れな虫のように見えた。
足掻いても抜け出せぬ
蝶が舞った軌跡は蜘蛛の糸
「…………」
「いかがですか?」
「…戴こう、かね」
懐から錦織の財布を抜き出すと、釣り銭の出ないようぴったり銭を払った。
たった一本のちっぽけな笛に、微かな運命を感じて。
ひらり、闇を舞う金の蝶*終幕*
一匹の蝶はやがて
大きな運命の渦に巻き込まれる
わからない時代背景や和歌などを何となくで解説している
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