伊予の戦女神

□紅い蝶、金の蝶
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暫くの間二人は言葉を発することなく、何処となく地面を見たり空を見たりしていた。気まずくてまともに顔も合わせようとしない。


無言の空間を最初に打ち破ったのは、少しだけすっきりした面持ちになった譲だった。



「すみません、こんな話を聞いたって宇鷺さんが迷惑なだけですよね」

「あー、いや…」

「なんだか宇鷺さんとは会ったばかりなのに、不思議とすらすら余計な事まで話してしまいました」



ぎこちなく返答する宇鷺に「出来れば忘れてください」、そう言ってニコッと笑う譲。宇鷺はかける言葉を思索したが結局見つからず、ポンと譲の頭に手をおいた。

そしてわしゃわしゃと撫で回す。



「わっ!宇鷺さん!」

「お前は全く…ヒノエと違って健気というか頑張り屋さんというか…っそんだけ気ぃ張ってちゃ疲れるだろう」

「べ、別に気を張ってるつもりは…」

「何かから一時的に逃げたくなったらさ、僕のとこに来なさい。慰めることは出来ないけど、お前が安らげる空間ぐらいは作ってやるから」

「………っ、!」



ふわっと優しい微笑を浮かべる宇鷺。

ゆらっと頼りなげに揺れた譲の浅葱色の瞳。

宇鷺の微笑みは、まるで広くて深くて、どこか懐かしさを覚える母なる海のようだと譲は思った。

何処までも優しく包んでくれる、静かな波のよう………。



「宇鷺さん…有り難う、ございます…」

「おう。頑張れそうか」

「当たり前でしょう。俺は先輩を守らなきゃいけないんですからね」



きっぱりとそう意思を告げた譲に、そうか、と笑って宇鷺は譲の頭から手を離した。

揺るぎないその瞳に、安心した。

握りっぱなしで落ちかけていた風呂敷をぎゅっと握り直し、ジャリッと渇いた砂を踏む。
帰るのかと思いきや、その足取りが邸に向かっているものではないと気がついた譲は、慌てて宇鷺の後を追った。



「宇鷺さん何処に行くんですかっ!」

「ん?お前が見ていた装飾具屋」



サラッと返答を返す宇鷺に思わず譲はえ?と目を丸くする。
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