伊予の戦女神

□紅い蝶、金の蝶
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惚けた眼差しで見ているものの正体を知った宇鷺はハァと溜め息を吐くと、思わずバシッと譲の肩をど突く。

長い時間付き合ったんだ、これくらいしても罰は当たらないだろ



「たっ!?」

「買いたいなら買いに行け。悩むくらいなら買っちまいな!」

「………っ!」



待たされたせいもあって語尾が強くなってしまったががご愛嬌。宇鷺の体当りにぐらついた譲はたたらを踏んだだけで踏み止まるが、体は装飾具の店に向いたままで立ちすくんでいる。

やがて苦汁を喫したような顔をした譲が口を開いた。



「先輩に…何か似合うものが無いかと、探していました」

「……(やっぱり…)」

「俺、昔からそうなんです。花を見つけた時、料理をした時、夜空を眺めた時…先輩は喜んでくれそうだなって、微笑んでくれるかなって、そればかりを考えているんです。何を見ても先輩の顔を思い浮かべてしまう。無意識に…」



ぎゅっと風呂敷を握り締める気配がする。

風が、緑の髪と金の髪をさらった。



「俺の想いなんて、先輩に伝わらなくてもいいと思ってました。傍にいられたらそれだけでいいと…ですが、この世界に来て事情が変わりました。八葉という存在が龍神の神子である先輩を守る…俺じゃなくていい、八葉の誰かが…」

「……、お前も、八葉じゃないか」



初めて聞かされた譲の秘めた想いに、宇鷺は驚愕を隠しきれずに一拍遅れて返事を返す。

だってこんなの初耳だ。

譲が望美ちゃんを特別視しているのはわかっていたがまさか…恋、の類いだったとは…



「所詮、八葉の一人です。…神子を救える数奇な八葉に選ばれただけでも幸運なことなのに、俺はそれでも…本心では、物足りないと思っている。自分でも驚きました、こんなにも俺は傲慢な人間だったなんて…」



先輩を守るのは俺だけでいい…

そう呟いて目蓋を伏せた譲の脳裏には望美がいるのだろう。切実なる譲の想いに宇鷺は底深い深緑の瞳を細め、どうしたものかと肩を竦めた。

わからないこともないんだ、その傲慢な想い。僕だって大切に思ってる人には一番に自分を頼ってほしい。

…けれど、そこに恋慕が絡んだことはない。



春のうららかな陽射しが、温かな気分と反した不似合いな二人を包み込む。


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