伊予の戦女神

□紅い蝶、金の蝶
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長い渡殿を抜け、東対を少し歩いた所に書物庫はあった。

景時殿は小さいと言っていたが、他の邸宅に比べたら断然大きく、彼は謙虚過ぎるなぁと染々感じいっていた。

目的の書物を探し出し、円座を引っ張りだして読む。



「まず…八葉。龍神の神子を守るために龍の宝石が選んだ者のこと。それぞれが加護を受ける四神に属し、司る理によって天と地に役目が分かれる…へぇ…」



次にシュルッと紫の巻物の紐を解く。



「神子…龍神の神子。龍神に選ばれた存在のこと。龍神と心を通わせることができる。そして神子は異なった世界から現る…面白いねぇ」



こんな調子で次々巻物を解いては読んでいく。

何で今こんなことをしだしたのかといえば、弁慶殿と五条大橋で話してからだ。
僕は幼少の時から勉学を学んでいたからそれなりに知識はあるほうだと思っていたが、弁慶殿と話していてその自信は呆気なく崩れた。僕よりも普通に知識あるし、龍神の事や神子についてやけに詳しかった。

意外と僕って博薄だったのか?

え、勉学不足?

そんな念に囚われた僕は必然的に書物を読まねばと思った。龍神関係の知識は表面を撫でる程度しか持っていない。そんなんじゃこれからの戦で生き残れるわけがない。

…しかし本音を言うと



「(悔しいんだよ、この僕に知らない事があるなんて…!)」



単に誇りが高いだけなのだ。

常に闘争心を持ち、高みを目指している僕にとって、敵がいればいるほど燃えるし負けないと思う心が僕を強くする。



「後で街に行って調べる必要もあるな…」



…故に完璧さを求めることもしばしばだけどね。



「あの…宇鷺さん、少しいいですか?」

「ん、譲か。どうした?」



巻物から目を離し顔を上げると、譲が書物庫の入口に立っていた。

書物庫の大きさに圧倒されているようで、暫く呆けていると途中でハッと我に返り僕を見る。

その若葉色の瞳には好奇心が見え隠れしていて、書物が読みたいんだなぁと感じとり微笑ましかった。



「街に買い物に行くんですけど、宇鷺さん一緒に来てくれませんか?」

「僕が?」

「はい。実は今日は沢山買おうと思って人手を求めていたんです。九郎さんも弁慶さんも景時さんも、暇なはずないですしヒノエに関してはまぁ、難しいかなと思いまして」

「嗚呼ー…なるほど」



確かにヒノエは動かないだろうね。

出会って間もない少年に行動を読まれている幼馴染みに、同情よりも先に失笑が込み上げてきた。



「先輩や朔に持たせるわけにもいかないので、宇鷺さんに頼もうと…」

「おーいいよ、行こうか」

「有り難うございます」



あっさりと受託し、さっと立ち上がる。

書物なんていつでも読めるし、何より……



「?俺の顔に何かついてますか」

「…いいや」



譲は、八葉だ。

文献から知識を得ることも大事%B
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