*そしてマリアンは・・・B(川べり〜基地へ)


ペースを上げたせいか、疲れが出てきた。
(また肩につかまりたい・・)マリアンは自分の前を黙って同じペースで歩くクラウドの後ろ姿を見つめた。
「クラウド・・・」声をかけてみた。
クラウドは振り返ると
「なんでしょうか?」と例の固い声で答えた。

「疲れたのでまた肩を貸してくれる?」自分でも驚くほど積極的に頼んでみた。

「かまいません。レディ。」クラウドは隣に来ると、マリアンの腕を取って肩にまわした。

「クラウドは恋人いるの?」思い切って聞いてみた。

「そういう個人的質問にはお答えできません。単なる興味で聞くものではないですよ。」
クラウドはマリアンの顔をじっとみつめるとそう答えた。
マリアンは質問を後悔した。

「いいの、別に。あなたはとても素敵だから、恋人は幸せなんだろうなあ、って思っただけ。」マリアンはあわててそう言うと顔をそむけた。
「オレが素敵ですか・・・ただの野蛮な田舎者です。山育ちの。レディの世界にはあまりいないタイプだから珍しいんじゃないですか?」

クラウドはにこりともせずそう言うとさらに歩くペースを速めた。

マリアンはやるせない気持ちで息苦しくなってきた。
気持ちが全然伝わらない・・・

無事基地に戻ったら、手紙かメールで街に誘い出せないかしら。軍服はとても似合うけど、普通の格好も見たい。
私の個人的ボディガードに雇えたら、いいんだけど。
マリアンは諦めていなかった。

クラウドが立ち止まった。

「水の匂いがしてきます。もうすぐ川にでます。」

しばらく行くと、本当に川べりにでた。
川は流れが速く、岸の岩をかみながら白波を立てている。

「この川沿いに少し下るとボートがあるはずです。ボートにのれば基地まですぐですよ。」

右手に川を見ながら、川沿いに迫った森の縁を進む。

「もうそろそろ神羅の完全制圧圏に入りますから安心です。」クラウドはそういうと立ち止まり、腰のポーチから双眼鏡を取り出した。

「ちょっとここでお待ちください。」マリアンをその場に座らせると山猫のように身軽に岸辺の岩にのぼり、岩陰からじっと双眼鏡で両岸を見渡した。

「大丈夫です、この少し先に渡し場があります。ボートに乗ればあっという間ですから。」

マリアンはかなり疲れていたが、またクラウドの肩を借りて、岸辺の森の縁をたどった。
木がまばらになってきてるので明るいし、風もよく吹き抜ける。
戦争なんてどこでしてるのかしら、というほど静かで空気もかぐわしい。
あと少しでこの無口で無愛想な青年ともお別れだ。どうにかしてまた会うことは出来ないかかと、端正な横顔を見ながら考えていた。体が密着してるので、軍服をとおしても温かさが伝わってくる。一瞬見ただけのクラウドの彫像のような体のフォルムが頭にちらつく。胸の中に固まりがあるように息苦しい。

クラウドに笑いかけてもらいたい、まだ一度も笑顔を見てない・・・

「見えてきました。ボート小屋です。」

小屋は粗末な差し掛け小屋で、急流が小さい湾のように岸を削り取った部分に突き出すように建っている。

小屋の近くは地面がじくじくしており歩くと足が沈みこむ。

「歩けそうですか?」クラウドが手を引いてくれる。革の手袋の感触が少し淋しい。素手に触りたかった、などぼんやり考えながら小屋まで歩いた。

小屋は川に面して開いていて、床板の真ん中は川の流れとつながるような水路になっており一艘の小舟が係留されている。

クラウドは小舟の底の水を置いてあったバケツで掻い出し、艫側の乾いた部分に荷物を移した。

舟に乗り込むとマリアンに手を差出し、艫側の乾いたところに座らせた。

「今舟を出します。荷物を枕にしてなるべく伏せていてください。岸から撃たれる可能性もありますので。」
クラウドはもやい綱を解くと、オールでついて舟を出した。小屋からゆっくりと舟は顔を出し、川の流れに乗った。

明るい光の中、舟は飛ぶように川を行く。

クラウドはまぶしそうに目を細め、オールを使いながら、岸辺にも素早く視線を走らせる。

マリアンは明るい日差しの中で初めてじっくりと顔を観察した。
髪はもちろん、天然のプラチナブロンドだろう。友人にはこの色に憧れて、染めてる者もいるが、こんな見事な色は初めて見た。
日光を受けてきらめき、風になぶられている。そして、瞳。明るいところで見ると透き通るような空色で、長く密生した金色の睫毛が影を落としてる。この瞳にいつも映ってるのは誰なんだろう?

「下りの流れに乗ってるから、2〜3時間で基地の近くに着きます。」ほっとしたような声でクラウドが声をかけた。

あと2〜3時間でお別れなのだ・・

荷物を枕にクラウドの顔を見上げた。

「またクラウドに会えるかしら?」マリアンはためらいながら聞いた。

「ご縁があれば。」感情のこもらない声であっさり言われ、会いたくないと言われたより哀しかった。

川風に乗って、細かいしぶきが飛んできて顔や髪を濡らす。自分が涙ぐんでいるのもこれじゃあわからないわね、とマリアンは思った。

クラウドが力強くオールを漕ぎ出した。

小舟は徐々に岸に近づきやがて神羅のロゴが入った船が何艘か係留されてる港に入っていった。

桟橋に舟を寄せると杭に綱を結び、クラウドがまず舟から下りた。

見張り小屋から兵士が走ってきてクラウドと二言三言会話を交わすとまた走り去った。

「無事着いて何よりです、レディ。ここはもう基地近くの港です。」そういいながら手をさしのべ、マリアンを舟から降ろしてくれた。

岸にあがるとふらふらする。クラウドがそっと体を支えてくれた。

港の外には軍用ジープが待機していて、二人を乗せてくれると基地へと走り出した。

マリアンの旅は終わった。
→NEXT(短い旅の終わり)

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