*短い旅の終わり

ジープは砂塵を蹴立てて神羅の基地に入っていった。

門のところで衛兵に挨拶すると、衛兵は無線で本部に連絡をとった。

ジープが本部前に到着すると、入り口にはマリアンの父と大佐、もうひとり黒髪の青年将校が待っていた。

「マリアン!!!」マリアンの父は大きく手を広げてマリアンを抱きしめた。

「ストライフ伍長、ご苦労だった。」マックスウェル大佐がクラウドに声をかけるのが聞こえた。

「ただいま無事ミス・ケンドリックをお連れしました。」クラウドが敬礼の姿勢をとってそういうのが聞こえた。

「任務の無事遂行、何よりだったな。ストライフ副官。」深みのある低い声がして、クラウドはそちらにも敬礼している。

この人が直属の上司なんだ、と思い、見るともなしにマリアンはそちらに目をやった。

長身で大柄な青年将校がニコニコしながらクラウドを見ている。
黒髪に蒼い目をしていて、精悍な整った風貌をしている。クラウドとは異なったタイプの美青年だ。

「まずは部屋で埃を落としてから報告にきたまえ。よくやった。」大佐はそういうと、マリアンの父を促して執務室へと向かった。
クラウドと上司の青年は再度敬礼するとマリアンたちと逆方向に廊下を立ち去った。
マリアンも父親と一緒についていったが、途中でクラウドにお礼を言ってないことに気づいた。

「お父さん、私ストライフ伍長にお礼を言ってないんで、一言言ってくるわ。」そういうと父親の制止も聞かず、二人を追いかけた。

ついに、ついに一度もクラウドが笑うのを見ることが出来なかった。
心残りだけど、せめてお礼を言おう。彼のお陰で生きて無事父親の元に帰れたのだから。
もしかしたらまた会う機会があるかもしれない。今度会ったら笑いかけてほしい・・・

マリアンは痛む足をひきずって二人を追いかけた。
官舎の廊下は薄暗く、この時間は人もあまり歩いていない。迷路みたいだわ、と思い、二人が曲がったと思われる廊下の角の見当をつけた



マリアンは角を曲がると思わず立ち止まった。

別に二人は抱擁しあっていたわけでも、熱い口付けを交わしていたわけでもない。
それなのにそこにはたった今までそうしていたような濃厚な空気が漂っていた。

黒髪の長身の中尉はクラウドの肩に手をおき、顔を近づけて何か言っている、
クラウドは中尉の腰に片手をおいて満面の笑みでその顔を見上げている。

クラウドはゆっくり振り返るとマリアンを認め、艶然と笑いながら軽く会釈した。
別人のようなその笑みはマリアンを完全に拒絶していた。

そう、そういうことだったのだ・・・

マリアンは自分の短い恋が終わりを告げたことを知った。


         完(2008/8/31)
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