*そしてマリアンは・・・A(翌日夜〜朝〜川べりへ)


日が傾いてきた。
マリアンはもう意識を失いそうなくらい疲れてきた。

「クラウド、まだ歩くの??もうすぐ夕方じゃない?」苦しい息の下やっと声をかけた。

「レディ、疲れさせて申し訳ありません。夜はどこか目立たないところで休みましょう。もう少し辛抱してください。野営地を探してますので。」クラウドは振り返るとそう言った。汗ひとつかいてないし、息も上がってない。
マリアンはふらふらとクラウドの肩に思わずつかまった。
クラウドはマリアンの腕をつかむと自分の肩に廻してつかまらせた。クラウドの肩は意外に広く、歩いていると肩の筋肉と骨が軍服の下で動くのを感じる。
マリアンはそっとクラウドの顔を横目でうかがった。整った鼻筋に長い金色の睫毛、形のよい薄い唇は固く引き結ばれている。
胸が熱くなり、思わず顔をそらした。

少し行くと浅い小川の流れているところがあった。

「失礼ですが、おぶって渡りますので。」クラウドに言われたので背中につかまった。マリアンは温かい背中にそっと顔をつけた。
クラウドは軽々おぶうと、小川にざぶざぶ入って行った。
渡りきったところでマリアンを下ろすと、振り返ってマリアンをじっと見た。

「大分お疲れのようですね。この辺りで夜営しましょう。」
少し歩くとこんもりした丸い藪があった。クラウドはそこの前で立ち止まると、藪の中に這い入ってまだ出てきた。

「ここがいいです。這って入って来てください。」

マリアンが這いいると、中には枝がなく、小さな空き地のようになっている。茂った葉が回りを覆い、テントのようだ。

「オレは山の中ではこれをテントの木って呼んでるんです。本当の名前は知りませんが。運がよかった。ここなら気持ちよく眠れます。」
クラウドの口調が少し砕けてきたのでマリアンはなんとなく嬉しくなった。
枯葉と草を集めると、そこに防水シートを敷いた。
背嚢からペチコートを取り出し、マリアンに渡した。
「これを枕にするといいです。今夕食の支度をしますので待っててください。」

「クラウドはどこで寝るの?」ほとんど休みなく動いてるので少し心配になって、マリアンは聞いた。
「オレは夜は寝ません。食後少し休みますけど。」

そういうと藪から出て行った。マリアンは防水シートの上に寝転んだ。結構気持ちよい。
クラウドが声をかけたので出て行くと、簡易コンロの上に小さいカップをのせて、フリーズドライのシチューをもどしていた。

マリアンはクラウドから、カップのシチューと、糧食バーを渡された。
カップはトマト味のチキンシチューで意外に美味しかった。温かい食べ物が体に染み渡る。
糧食バーを手にとると溜め息が出た。

「これ、もうイヤだわ・・あ〜・・鶏の丸焼きとか食べたいなあ・・」

「ウータイ兵に追いかけられてなければ雉でも撃って料理して差し上げるんですけど。」
「あなた、料理なんて出来るの?」マリアンが驚いて聞くと
「山でとれるものなら一応できます。。野蛮な料理ですが。」クラウドはそういうと顔を上げ、遠い目をして一瞬物思いにふけったように見えた。

「残念だわ。あなたに料理してもらいたかった・・」マリアンは肩をすくめるとバーを勢いよく齧った。

「雉、鴨、兎あたりは簡単に撃てるし、料理も楽です。」

「兎も!!可哀そう・・・」マリアンが言うとクラウドは

「兎は美味いですよ。」と言い、自分のカップの中のシチューの残りをを飲み干した。

クラウドが火の始末をするころ、美しい夕焼けの雲が頭上に見えた。

「すいません、一時間ほど眠ります。申し訳ないのですが時間になったら声をかけていただけますか?」
マリアンはクラウドから時計を渡された。

マリアンがうなずくと、クラウドは木に寄りかかり、ライフルを抱きしめたまま眠りに落ちた。
瞬間に眠ったのが信じられなくて、マリアンはあぶなく声をかけて確認するところだった。
眠ってる顔を、ここぞとばかりじっくり見る。口がわずかに開いており、真っ白な粒ぞろいの歯がのぞいてる。
(キスしたい・・・)髪が乱れていて、目に半分はいりかけている。金色の睫毛が時々震え、軽く眉根をよせる。
(夢をみてるのかしら?)
一時間はあっという間だった。クラウドの顔を飽かず眺めているうちに時間になった。
(キスして起こしたらきっとびっくりするわね。)

マリアンが顔をそっと近づけるとクラウドがいきなり抱きついた。
「・・・ックス・・」
マリアンが驚いて息を呑むとクラウドの目が開き、その頬に血がさっと上った。

「レディ、失礼しました・・・変な夢を見てたようです。」取り乱したクラウドを始めて見た。マリアンはクラウドのつぶやいた名前は恋人かしらん、と軽い嫉妬の思いが胸にわいた。

クラウドはすぐにいつもの無表情に戻ると、マリアンに眠るよう促した。簡易バケツに汲んだ水とタオルを手渡し、
「風呂はないので、これで我慢してください、レディ。」と藪の中に追いやった。

藪の中は居心地がよく、枯葉の上の防水シートは、ウータイ兵に捕まっていた時の小屋のベッドより、よっぽど気持ち良かった。
ペチコートの枕もちょうど良く、枯葉の匂いの中ぐっすり眠った。
明るくなってきたなとぼんやり思っていたら、藪の外から声をかけられた。

「レディ・マリアン、お目覚めになりましたか?紅茶を淹れました。」

マリアンは昨日のタオルで顔を拭いた。クラウドの黒いタートルを着たまま寝たが、一応少し服を調えて藪から這い出た。

クラウドは朝日の中、少しやつれて見えた。ほとんど寝てないのだろう。
クラウドは簡易コンロで沸かしたお湯の中に入れた紅茶のティーバッグをひきだし、角砂糖を二つ入れるとマリアンに渡した。

「少しだけ紅茶を持ってきたので。まあ、ティーバッグですが。」

クラウドはマリアンに冷たいわけではない。とても親切で、色々気遣ってくれる。ただ、自分という女性に全く関心がないのだ。
どうしたらこの鉄の心臓を持った美青年を振り向かせることができるんだろう・・・マリアンは紅茶を飲みながら軽く溜め息をついた。

紅茶は甘く切ない味がした。
例の不味い糧食バーの他に、干し肉のようなものをナイフで切って渡された。

「ジャーキーです。塩気の補給になります。」クラウドはジャーキーをくわえたまま、後始末を始めた。
辺りの痕跡をなくすように木の葉を撒き、足跡を消す。

「出発できますか?あと少しで神羅の完全制圧圏に入ります。川にでたらボートで川を一気に下り、基地まで行きます。がんばってください。」

一晩ぐっすり眠って少し力を回復したので、マリアンもいいペースで歩けるようになった。足の痛みもとれてる。
クラウドは振り向くと
「少しペースを上げますけど無理なら仰ってください。」そういって少し足を速めた。

しばらく歩くとクラウドは一本の木の下で立ち止まった。

「ちょっと待ってください。」荷物を下に置くと跳躍して頭上の枝につかまった。
片方の手を離すと片腕で懸垂しながら体を引き上げ、伸ばした手で蔓の先にさがった葡萄のようなものをつかみ、飛び降りた。

「山葡萄です。甘くて美味いです。」クラウドはマリアンに渡した。

マリアンがおそるおそる一粒食べて見ると甘酸っぱく香り高い。

「すごく美味しい!!」クラウドはほっとしたような顔で、
「これくらいなら美味しいものを取って差し上げられます。」と言い、荷物を再び背負うと歩き出した。

ペースも大分上がってきた。
森の中の空気は爽やかで、鳴き交わす鳥の声が耳に心地よい。

クラウドはいきなり立ち止まると、野生の獣が警戒するように首をめぐらし、じっと聞き耳をたてた。

「そこの木の後ろに隠れていてください・・」と小声で指示し、自分はライフルを構えると近くの藪の下に潜んだ。

微かな話し声が木々の向こうから風にのって聞こえてきた気がした。マリアンはじっと身を縮めて震えていた。

下生えをガサガサいわせて、人が近づいてくる。声がはっきり聞こえだした時、クラウドが撃った。
ウータイ兵の叫ぶ声がしたと思ったら、立て続けに銃声が何発か響いた。

マリアンは歯の根が合わなかった。

「もう大丈夫です。二人しかいませんでした。」

「今のは私達を追跡してきたの?」マリアンが震えながら聞くと、

「いや、この地域一体を掃討してるんでしょう。大分追いつかれました。他の連中に出くわす前に川にたどり着かないと。あと少しです。」クラウドは荷物を背負うとマリアンを急がせた。
→NEXT(そしてマリアンは・・・B)

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