*私的任務
マリアンは後悔していた。
まさかこんなことになるなんて・・・
森の中の粗末な小屋の二階で膝を抱えてうずくまる。夕食にでたウータイ風のミソスープが口に合わず、胸焼けがする。藁布団はシーツから藁がはみ出てチクチクするから横になるのもイヤだ。
御伽噺なら素敵な王子さまが助けに来てくれるところだけど。
森を吹き抜ける風の音が不気味な怪物のほえ声のようだ。もう暗くなってきた・・
ザックスとクラウドは夕方遅くに突然大佐に呼び出された。
ウータイ駐留の長いマックスウェル大佐は、地元の政財界ともつながりがあるという噂のやり手の大佐で、ウータイ本部基地に物資が潤沢なのはこの大佐のお陰だという話だ。
重厚な木の扉をザックスがノックする。
「入りたまえ。」中から声がして、扉脇に控えてる兵卒が扉を開けた。
「ザックス・フェア、及び副官のクラウド・ストライフ、参上いたしました。」
ザックスは姿勢を正し敬礼をする。後ろでクラウドも敬礼の姿勢をとる。
「楽にしてくれ。急ぎの用事なもので、色々前置きは抜きで行く。」大佐はウータイの地図を広げてある大きな机の向こうから声をかけてきた。
大佐の隣には、身なりの良い初老の紳士が蒼白な顔をして立っている。
「時間がないので、単刀直入に言おう。ザックス・フェア中尉、君のところのストライフ伍長を貸してもらいたい。」
ザックスが一瞬怪訝な顔をする。
「実はこちらにいるケンドリック氏のお嬢さんがウータイ兵に拉致されて、山小屋に監禁されているのだ。相手方の要求を呑むわけにいかないので、今時間稼ぎをしているが、なるべく早く救出したい。ストライフ伍長は、優秀なスナイパーで山に詳しいと聞く。彼に救出に向かってもらいたいのだ。少々私的な頼まれごとだと思ってくれ。」
もちろん断る権限などあろうわけもない。
「了解しました。クラウド・ストライフ副官にお申し付けください。」ザックスは再度敬礼すると一歩下がり。クラウドに目配せした。
「地図を拝見してもよろしいでしょうか?」クラウドが前に出てきて声をかける。
大佐は手招きすると、机上のライトを強くし、赤いペンで指し示した。
「ここから約二日の行程のところにあるこの位置に古い山小屋がある。今のところここに監禁されている。警備はそれほど厳重でもないようだ。周りが深い森だからだろう。」
大佐は赤いペンで小屋の位置から点線を引き、川に出るとバツ印をつけた。
「川のこの位置まで連れてきてもらえれば、ボートを待機させておくから川を下ってくれ。あとはすぐ神羅の制圧圏に入る。」
「何人必要だ?」大佐が聞くとクラウドは首を少しかしげて、
「私一人で十分だと思います。一人なら、この山小屋まで一日で行けます。人数が多いと目立つし、あし・・」
ザックスが後ろから軽く蹴った。クラウドは足手まといという言葉をあわてて飲み込んだ。
「あの、帰りもこの距離なら川までせいぜい一日なので一人で大丈夫でしょう。」クラウドは地図をじっくり眺めた。
「では頼んだ。もう一枚地図がある。印はつけておいたので後でまた部屋で確認してくれ。必要な物品は用度係りに言えばすぐ用意してく
れる。今晩中に出発できるな。」大佐は引き出しからもう一枚小ぶりの地図を出すと丸めながらクラウドに渡した、
「イェス・サー。一時間で出発できます。」クラウドは敬礼すると、地図を受け取った。
大佐はほっとしたような顔で隣にいる紳士と顔を見合わせてうなずいた。
二人で部屋に戻ると、ザックスが心配そうにクラウドの髪を撫でた。
「大丈夫か?一人で。大佐が癒着してるという噂の商人の依頼だけど、断るわけにもいかないしな。」
「一人の方が素早く動けるし、身を潜めるのも楽だからいいんだ。鈍い連中に付いて来られたら命取りだよ。」
クラウドは愛用のライフルの銃身を覗き込みながら点検し、よし、と一人事を言いながら肩にしょった。
「帰りが厄介だ。女連れで山道を歩かないと・・・まあ、たいした距離じゃないけどね。」
ザックスはクラウドの言う「たいしたことない距離」が少々心配になって一言言うことにした。
「クラウド、イライラしないようにな。なんでも箱入りのお嬢さんらしいから、色々我慢してやれよ。」
「全力を尽くします、中尉。」二人は軽く口付けを交わした。
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