頂き物

□夢見る少女じゃいられない
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思うに、年頃の女の子なのだから、『素敵な恋』に憧れるのは、至極普通のことではないでしょうか。



「どこに行くんだ、イノセント?」

裏口から表へ出ようとしたところで、後ろから突然、声をかけられた。

「お、お兄様…」
「学校は行くならまだ時間が早いだろう?
そもそも、なぜ車庫に向かわない?」

兄の詰問に応えようと、わたしは振り返って曖昧に笑う。手には教科書のつまった学生鞄。膝のあたりで制服のスカートが揺れる。しかつめらしいルーファウスの顔を見上げ、できるだけなんでもないことのように言ってみた。

「あのねっ、今日は天気もいいから、たまには歩いて登校してみようかなぁ、なんて。
いつもいつも車で送ってもらうのも悪いでしょう?」
「駄目に決まっているだろう。送迎の手間より、お前を追いかける護衛の手間の方がはるかに多と思わないか?
それともまた、コミックとやらに感化されたか?」

そう言って、兄はおもむろに一冊の本を取り出した。それを見てわたしは大きくあっと声をあげる。

「あーっ、それ、わたしの本!
なんでお兄様が持ってるの?返してっ」
「…こういうものを読む心理は、どうも俺にはわからないな。
…ふむ、『朝の通学路は出会いの予感』?イノセントはこう言った状況に憧れるのか?」
「読まないでよっ、見ないでよっ!
うう〜、友達から借りたものなんだから、返して!」

躍起になって取り返そうとするが、ルーファウスはいともたやすくわたしの手をすり抜けていく。こっそり学校の友達から借りた『ドキッ!放課後は恋の予感♪第三巻』をぺらぺらとめくって、兄はうーん、とつまらなそうな声をあげた。


たぶん、兄に女の子の気持ちは、ぜったいにわからないのだ。


高い場所にある本になんとか辿り着こうと、ぴょんぴょん飛び跳ねる。本よりもムキになったわたしの方が面白くなったらしく、ルーファウスが意地悪く笑った。

「そんなことではいつまでたっても取り返せないぞ?
学校に遅れるんじゃないか?」
「そう思うなら、早く返してっ!」
「わかった、わかった。
わかったから、歩いて行くなどバカな考えはやめて、早く車に乗るんだな。」

ひとしきりわたしをからかうと、ルーファウスは満足したのかあっさり本を差し出した。頬を膨らませて、急いで受け取る。見上げると、兄は勝ち誇ったように口角をあげ、ぽんぽんと頭の上に手を置いた。

「そう簡単に膨れ面をするようでは、イノセントはまだまだ子どもだな。
子どもに恋愛事など早いだろう」

楽しげに言う兄に、わたしは思いきり ―― そして子どもっぽく、声をあげた。

「いじわる …
お兄様の、バカーっ!!」
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