Fake Blue
□ NO6. 恩人
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人ひとり入れる実験用の硝子ビーカーの中に、 エレノアはいた。その中で彼女に照射されているのは、濃度を調節された魔晄溶液。
一糸纏わぬ彼女の身体を、宝条はモルモットを見るような目付きで見守っていた。魔晄照射のさい、衣服を身に付けていても支障はないのだが、効果をより詳細に観察するために全裸にしていた。
この研究室は神羅ビルの一室だが、宝条が独占していて、他の研究員は使用出来ない。
傷つけられた エレノアの細胞は、魔晄の力によってみるみる再生していく。
「全く・・役立たずのくせに、治りだけは早いな」
「・・・・」
冷徹な眼差しを、感情のない瞳で見返す。出逢った時から、ずっとーー
「お前も物好きだな。同じ男に2度も斬られて。本当にアレと関係があったのか?お前たちの睦事などくだらないと監視しなかったがーーーまあいい。ここを出たら、ヤツを見張れ。今のところ、動きがあるのはヤツだけだ。動きは掴んでいる。そうだ、屋敷に連れていくのもいいかもしれん」
治療が終わり、カプセルを出る。宝条は全裸のままの エレノアに、タオルを用意する気遣いすらない。
「あの若僧にクビにされたそうだな」
「はい・・」
「ふんーーまぁいい。私も神羅を辞める。ここでやるべき事は全て済んだ。アレの追跡もしている。あとは結果をみるだけだ。別荘にいるから、うまく連れて来い。直接見たい」
一方的につげると、後ろ手に去って行く。 エレノアは魔晄の匂いを洗い流すためにシャワールームへ向かい、髪と身体を丹念に洗浄した。
濡れてまとわりつく亜麻色の髪を、煩そうに両手で纏める。
備え付けられた粗末な鏡に写る裸体。
「私・・いくつだっけ・・」
ツンと上を向いた乳房、丸い臀部と引き締まった腹ーーー若々しい細胞。
どうみても十代にしか見えない。
自分の身体をを見ている筈の エレノアの瞳は、どこか遠くを見ているようだ。
身体を拭き髪を乾かすと、予備の服と防具を着ける。防具らしきものは、シルバーの肩当てだけだが、黒い長袖のジャケットもホワイトリリィと呼ばれる白のTシャツもココアブラウンのスリムパンツも特殊加工されていた。防弾は勿論、モンスターの吐く焔くらいは十分に防げる。
その後、私物を取りに、エレベーターで62階へ移動する。プレジデントの殺害という、あまりにも劇的な社長交代劇に、重役たちの姿は見えない。
対応に追われているのかと思ったが、すぐにそんなことはないと軽く頭を振る。
おそらく、新社長へのご機嫌うかがいに忙しいのだろう。
小さなバッグにわずかばかりの荷物を詰めると、ソルジャーに与えられた個室を後にした。
かつて、共に戦い、笑い、泣いた仲間ももういない。この場所に来ることもない。
・・
ーーー地下のことは、どうするのだろう
あの場所は、ルーファウスも知らない。しかし、気づかれずに出入りすることは可能だろう。プレジデント亡き今、知っているのは自分と宝条だけ。
それに、神羅を辞めると云っても、ルーファウスが簡単に手放すとは思えない。
宝条が自由に動くための辞職ーーーそう考える方が自然か。
「 エレノア ーー」
考え事をしていて、足が止まっていたようだ。掛けられた声に顔をあげると、リーヴが笑みを浮かべて立っていた。
「リーヴ・・何?」
「彼らを追うなら、お願いがあります」
「え?」
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