頂き物

□君だから!
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最近の中央司令部は、ある人物の話題で持ち切りだった。
どこへ行ってもその人物の話題は絶えず、彼女の存在はここ半月ほどで、
大きく浮かび上がったのだった。


「おい!見ろよ…あれアヤ大佐だろ?マジでかわいいなあ!!」


「バッカお前…声でけーよ!聞こえたらどうすんだよ!」


「そういえば知ってるか?この間の話。」


「ああ…突然殴られて、全治2週間ってやつだろ?」


「こっえーよな!どんだけ殴ったんだか……でも、マジでかわいいんだよなー!」


「それさっきも聞いたっての!」



司令部内を歩くたびに、耳を塞ぎたくなるような噂話が飛び交う。

彼女はいつからか、一所にとどまるようになってしまった。



「ふう…。」



目的の部屋までたどりつくと、勢いよく扉を閉めた。安堵感に、ため息をつきたくもなる。
彼女はアヤ。20代という若さで大佐の地位までのぼりつめ、
あの、イシュヴァールの英雄とも肩を並べるほどの有名人だった。
その端麗な容姿もさることながら、大佐という地位にして、可愛らしい身長という、ギャップが可愛いという声が広まりつつあった。

しかし、最近では別の話題の方で有名になってしまったが…。




「お疲れですね、大丈夫ですか?」



自分の補佐をしてくれているこの金髪の女性……名前を忘れてしまったと、彼女は顔をしかめた。
ここへ移ってまだ一ヶ月とはいえ、この女性は、かなり頼りになる存在だと思った。

そして、ここ半月ほどの彼女の状況の激変ぶりも、理解したうえで、
彼女の負荷が重くならないように、配慮している。まさに完璧ともいえる補佐だ。



「ここは、居心地が悪いな。」



ポロリと、つい愚痴をこぼしてしまった自分に少々慌てたが、事実なので特に否定する事もなく、
金髪女性の返答を待った。


「アヤ大佐は、北からいらしたんですよね?」


「ああ、鬼少将にさんざんコキ使われたあげく、ここに飛ばされた。…ついてないな。」


北方の土地、ブリッグズを指揮している金髪鬼少将を頭に思い浮かべたが、
しごかれた毎日を思い出し、少し気分が悪くなってきたような気がして、慌てて思考を変えた。


「そういえば、君はマスタングの補佐をしているんじゃないのか?」


この女性が彼女の補佐を兼用でやっているということを、以前に聞いたのを思い出した。
同時に、こんなつまらない逃走劇に付き合わせてしまっているのが、申し訳なくなった。


「いえ、私は補佐というよりは、お守り役ですから。」


「ハハハ…お守りか、まるで子供だな。」


「全く、大きな子供ですね。」



言葉だけを聞けば、トゲがあるようにも聞こえるが、この女性はとても優しい。
今の発言も、相手を思いやってこその発言だと、アヤは思った。
そして、そんな彼女の名前を未だに思い出せない自分が少しだけ腹立たしかった。
階級が、中尉ということだけは覚えているが、人の名前をろくに覚えず、
階級のみを覚えてしまっている自分自身が悲しい。



「あの、中尉…すまないが…」


「リザです。」


「え?」


「リザ・ホークアイです。」



彼女は目を見開き、そのままその目を金髪女性、リザにむけた。
今まさに、名前を聞こうとしていたのは事実だったが、
彼女に先に言われてしまった事に驚いた。


「どうして気づいた?」


「名前のことですか?大佐が私を呼ぼうとする際に、いつも躊躇しておられたので。
もしかしたら、お忘れになったのではないかと思いまして。」


「躊躇…していたか?」


「ええ、今も。大佐が、『あの…』と言うのは私の名前を呼ぼうとする時くらいです。」


そういえば、そんなことを言っていたかもしれないと、ここ一ヶ月の自分の言動を思い出そうとしたが、
思い当たる節がありすぎて、思わず苦笑いをこぼした。その様子を見たリザが、あわてて彼女に頭をさげた。


「申し訳ありません、失礼な発言を…。」


思いがけない謝罪に、彼女の方が慌て、リザの下げられていた両肩を急いで持ち上げた。


「いや…今のは私が悪いんだ…。ホークアイ中尉。」


目があうと、リザは彼女に微笑んだ。
一ヶ月という短い付き合いながら、彼女は本当に気が許せる部下だ。
彼女がお守りをしているというロイが、少し羨ましかった。


「アヤ大佐は、お優しいですね。なぜ…あんな噂が出回ってしまっているんでしょうか。」


リザが言う噂というものに、彼女は思い当たる事実があるのだが、それとは大きく違っている。
事の発端は、彼女がここへきて、半月ほど経ったある日のことだった。





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