頂き物

□ 眠れない夜に捧げる
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――眠らない街ザナルカンド。

俺は、この街へ辿り着くことができた…

いまの俺にとって、唯一の希望を見守る為に――





【眠れない夜に捧げる】





気がついた時には、すでにここに立っていた。

目の前には大きなスフィアプール。スピラのものとは比べ物にならないくらい、大きくてきらびやかな代物に、俺は自然と目を奪われた。

「ジェクトの言っていた通りだな」

口元を緩ませて、鼻で笑う。

『アーロン、分かったかぁ? 俺様の言うことに間違いはねぇんだよ』

不意に、ジェクトがいつものように偉そうに喋りかけてきたような気がした。

そのジェクトも、今は俺の隣にいない。ブラスカ様の究極召喚により、姿が変わってしまった。

俺はザナルカンドに来た目的の対象を探す前に、無性にブリッツを見てみたくなった。

それは、ほんの少しだけ、スピラでの出来事を忘れたかったからかもしれない。

いや……違うな。
スピラでの佳き想い出に浸りたかっただけだった。ジェクトとブラスカ様とまだ旅をしていた頃の、生気溢れた頃の俺の想い出に…

「ちょっと、あんた! そんなとこに突っ立ってないで、早く先へ進んでよっ」

振り向くと、俺の後ろに行列が出来ていた。

「すまん」

「分かったなら、早く! 試合始まっちゃうじゃない」

俺は後ろの偉そうな女に急かされ、想い出を遮断する。女は苛々していたが、俺は新天地を踏みしめるように、あえてゆっくりとチケット売り場へ進んだ。

売り場まで来て、俺はふと思い出した。スピラで所持金をすべて知人に渡していたため、手元には僅かな金しか残っていなかった。

チケット売り場の店員が、怪訝そうな表情で俺を見つめる。

「金を持ち合わせていなかった。チケットはキャンセルだ」

俺は足早にその場を後にする。

「ちょっと、あんた!」

今更ながら、ブリッツを見たいなどという衝動を起こした自分を馬鹿らしく思い自嘲する。

「ちょっと! おじさんっ 待ちなさいよ」

後ろから服を引っ張られ、俺はムッとした。

「おじさん、ブリッツ見たいんでしょ?」

見ると、さっきまで俺の後ろで喚いていた女だった。

「誰がおじさんだ」

「おじさんはおじさんじゃない、ってゆうか、ブリッツ見たいの? 見たくないの?」

女は、俺が睨みを効かせても怯むことなく捲し立てる。

「……………」

俺が黙っていると、女はいきなり俺の手を握りニコリと笑顔を浮かて、俺を会場へと引っ張った。

「見たいんでしょ、ブリッツ」

突然の女の行動に二、三歩足が出たが、俺は女の手を掴み服から剥ぎ取ると、石のようにその場へ留まる。女は、俺のせいでつんのめって転けそうになった。

「何するのよっ 危ないじゃない!」

「何、するだと? お前こそ、一体何のつもりだ」
「あたしは、おじさんにブリッツを見せてあげたいだけ!」

「ふざけるな」

「ふざけてなんかないよ。あたし、見てたんだから。おじさんが、半日近く、外からスフィアプールを眺めてたの…」

俺は、さっきまでの傲慢な態度を改めて、急に真剣な眼差しを向ける女を不思議に思った。

「おじさん、切なそうに…じっと見つめてたじゃない」

「その、おじさん、というのはやめろ」

「じゃあ何? お兄さんとでも呼んで欲しいわけ?」

「アーロンだ」

「ふーん、アーロンって言うんだ」

「お前の名は?」

「アヤ!」

アヤの笑って答える姿に、俺は過去を見た気がした。さっきまでのアヤの無礼な態度が、俺の中で音を立てて消えていく。アヤの笑顔は、ジェクトを思い出させた。



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