頂き物
□Haunted Stand
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【幽霊屋台】
「こんにちは」
「あ、アヤ先輩」
オフィスにいた麻衣は、待っていた訪問客を笑顔で出迎えた。
アヤは、麻衣の高校時代に世話になった先輩の一人だ。
麻衣につられて微笑むアヤは、少し疲れた顔をしていた。
少し前にSPRで麻衣が働いてることを知り、友人のつてでアヤは麻衣にある相談をしていた。
もちろん、SPRの仕事に相応しい不可解な事に関する相談だった。
「ほんとにいいのかな」
「まだ迷ってるんですか?」
「だって、ほんとに霊のせいかどうか分かんないし…」
「だから、それを調査するのがあたしたちの仕事なんですから」
アヤは、麻衣に強引にソファーへ座らさせる。
「ナル…あ、うちの所長、ナルっていうんですけど、ちょっと呼んできますね」
「麻衣っ」
アヤは、諦めたようにため息を吐いた。
「所長の渋谷です。麻衣から多少聞いてますが、もう一度依頼内容を伺ってもよろしいですか?」
アヤは、所長室から出てきた青年に思わず見とれていた。
端正な顔に長い睫毛、すらりと長い指先。
「アヤさん?」
「あ、すみません。実は私の実家はラーメン屋をしてるんです」
アヤの話だと、実家は屋台で営業するラーメン屋で、ここ半年近く夜中の2時になると必ず変な客が遠くから屋台を眺めているらしい。
「変というのは、具体的にどういったことですか」
「はじめは、酔っ払いかなんだと思っていたんです。でも、お客さんが、あれは前に事故にあった常連客に似てるっていいだして…」
アヤの聞いた話では、屋台に来ていた客の一人が、何年か前にラーメンを食べに来ようとして事故にあいそのまま亡くなった。
客の中には、ラーメンを食べた帰りにその幽霊に追いかけられたとか、ラーメンを食べに行く話をした時に、幽霊の姿を見たとかで、アヤの実家は悪い噂がたち、
客足が途絶えているとのことだった。
「ナル…依頼受けてくれるよね」
ナルはファイルを閉じて、小さくため息を吐く。
「麻衣の知り合いでなければ、お断りするところなんだが…」
「……ですよ、ね」
アヤは、恥ずかしさのあまり俯く。
「アヤ先輩」
麻衣は、俯いたアヤの肩を軽く叩いた。
「大丈夫。ナルは調査してくれるって」
「えっ でも」
アヤが顔を上げると、すでにナルは所長室へ戻ろうとしていた。
扉に手をかけ所長室へ入る間際、麻衣に淡々と指示を出す。
「麻衣、ぼーさんに連絡を。今夜、調査に行く」
「了解っ」アヤがきょとんとしてる間に、麻衣は素早く電話を入れる。
「アヤ先輩、今夜、屋台へ行きます。あたしと、ナルと、あともう一人の協力者の3人で」
「麻衣…」
麻衣は、事前に渋るナルを説得していたのだ。
アヤは、麻衣の明るい声に、SPRへ来て良かったと心から思った。
「よろしくお願いします」
アヤは深々と頭を下げた。
「アヤ先輩。あたし屋台で、食べたことないんですよ」
「麻衣?」
「晩御飯抜きの仕事になるし、調査終わったら、ラーメン楽しみにしてますねっ」
「うん。SPR特別仕様のを用意するね」
アヤと麻衣は、声を出して笑った。
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