頂き物
□ 眠れない夜に捧げる
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「アーロン、凄かったよね!」
「何がだ」
「さっきの試合に決まってるじゃない! あたし、久々に手に汗握っちゃった。エイブスの後半戦の逆転劇!」
アヤが、興奮した様子で俺に話しかける。
「エイブスなら何とかしてくれるとは思ってたけど、かなりの点差に、ちょっとだけ、諦めモードに入ってたんだ」
アヤが俺の前へ走り出て道を塞ぐ。
「けど、後半でじわじわ追いついて、試合終了1秒前のあのシュート!! エイブス最高だよ!」
俺はアヤの声を聞きながら、深夜だというのに賑やかな街の雰囲気に馴染めず、少し苛立ちを覚えた。
「アーロンもエイブス目当てで観に来てたんでしょ?」
「…いや、ただこちらのブリッツを観てみたかっただけだ」
「は?」
「それよりも、俺は先を急ぐ」
「えっ…」
「じゃあな」
暗くなった空を見上げて、俺はここへ来た本来の目的を果たすべく、アヤに別れを告げた。
――まず、あいつを見つけなくては…
俺は、ザナルカンドへ来た目的に思いを馳せ、足を早めた。
「ちょっと、アーロンっ」
「何だ、まだ何か用があるのか」
「帰るならチケット代払って!」
アヤは俺の前に立ち塞がり、腕を出してにっこりと微笑んだ。
「ただで見知らぬ人にチケット代出したとでも思ってるの?」
「ふっ 何が望みだ?」
「あたし、今日、暇なの」
「それで?」
「お金はいらないから、今日はあたしに付き合って!」
「却下だな、俺はチケット代を出してもらうよう頼んだ覚えはないし、お前に付き合ってる暇はない」
「でもブリッツ観たのはあたしのお金。アーロンは、あたしに御礼をするのが当然でしょ。御礼もなしに、帰るのは紳士の風上にも置けないと思うけど?」
「なら、礼を言う」
「言葉だけじゃ足りない」
「土下座でもしろと?」
「そんなの貰っても、あたし嬉しくないし」
「金なら払う。後日、稼いだら、な」
「ダメ。あたしに付き合えないなら、いますぐちょーだいっ」
俺とアヤの睨み合いは数分続き、引きそうにないアヤを見て、俺はため息を吐いた。
「……何をすれば気がすむ?」
「あたし、お腹空いたかも」
「金はないぞ」
「いいとこがあるの」
「………」
「あ、大丈夫! アーロンをとって食ったりしないから」
アヤは嬉しそうに俺の手を掴み、歩き始めた。
喧騒の中、アヤの掌の温もりが、今も昨日のことのように俺の心の中に鮮やかに蘇ってくる。
だが、この時の俺は、ザナルカンドに来て早々、厄介な奴に捕まったと己の運の無さが新天地でも続くのかと、自嘲するばかりだった。
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