月光

□夏という光の飛沫
2ページ/7ページ

残されたイルカは仕事を手早く終わらせ
机に突っ伏していた…

「ありがとうって、何がだろう」

お礼を言うのは自分の方で
言われるような事はしていない

「はたけ上忍…やっぱり…優しい…」

んー…と、唸ってしまう

「誰にでも…だよな…」

自分だから、ではなく…
誰にでもきっと優しいのだろう…

そう思うと、胸が痛い…

「………はぁ」

もう、随分…長い間
片思いをしている

相手は上忍だし、時間もあわない…
忙しそうで…食事に誘うのも躊躇われる…

「カカシ…さん」

名前を呟くと、体温があがった…

でも…こんな事を告げたら
困らせて、嫌われる

それだけは耐えられない…
それなら…黙って隠している方が良い…

聞き分けの良い
素直な部下で居れば
いつかは、カカシの下に配属されるかも知れない…

それだけを願って…
毎日過ごしている

「…………」

でも…
最近、本当に任務が回って来ない…
内勤ばかりで、腕が鈍っているかもしれない…

「………はぁ」

何度目かの溜息のあと
やっと椅子から立ち上がり
資料室をあとにする…

外はまだ昼を過ぎた位で眩しい…
深緑が綺麗に映る…

「…………」

蝉の声が聞こえる…
頭の隅で、夏だなぁ…と
ぼんやり考えていた





「………ふぅ」

待機所に居ても
任務は回って来ない…

諦めて外に出ると
開け放たれた廊下の窓の桟に手をかけ
目をつむっている…

「…………」

その横顔が、綺麗だった

見ているだけで
何故か気持ちが穏やかになる…

「……ぁっ」

視線に気付いたのか
慌ててこちらを向き、頭を下げる

「邪魔した?」
「いえ、とんでもない」
「……そ」

短く答えて
イルカの横に立った…

風が…イルカの頬を撫でて行く
気持ち良さそうに目を細めて
口元には…微笑…

「………うみの中忍」
「はい?」
「名前で呼んで良い?」
「………ぇ?」

イルカの驚いた顔に
自分が何を口走ったのか思い出す…

「…あれ?」

何でこんな事言ったんだろう…
自分で理由が解らなくて
顎に手を運んだ…

イルカはカカシの隣で
恥ずかしそうに俯いている…

その様子が、何だか可哀相で
口を開こうとした…

「……どう、ぞ…」
「ん?」
「ぁの…名前で…呼んで下さい…」

桟を握る手が
キュッと強くなった…

「イルカ」

口に、言葉にしながら

まだ頭の隅には疑問が残った…

『…何であんな事、口走ったのかな…俺』

そう、考えながら
もう一度、唇に乗せる…

「イルカ」

また…ビクリ…と、イルカの肩が震えた…

その姿が、本気で可哀相に見えて来た…
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ