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□甘い
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「アンタ…本当に変わったわ」

と…
待機所で言われた

「変わった?」
「変わったわよ」

言われても、ピンとこないのは
自覚が無いからだろう…

「アンタが心配だわ…」

深い溜息と共に聞こえた
紅の声と、アスマの視線…


言われた意味は

唐突に思い出す。


「ハァ…っ、まいったね…どーも…」

依頼内容が一致しない事なんて、良くある話で
自分だって、忍…いつだって覚悟はしている

……はず、なのに

「子供……」

敵だと認識しながら
躊躇った

「……子供…」

うなだれるように座り込み
呼吸を整える

頭の中に、あの人が浮かんだ…

いつだって子供に笑顔を向けて
楽しそうに、嬉しそうに笑う人

初めて好きになった人…

「………まいったね」

任務中とはいえ
あの人の耳に入ったら

あの人は…

「………」

あの人は、泣く…

例え敵でも…
捕虜にする、とか…

そうやって
甘い事を言うんだ…

「………」

あぁ、悲鳴が聞こえる
これは、どちらの悲鳴だろう

誰でも良いから
あの子供を殺してくれないだろうか…

そうすれば、安心して、任務に戻れる

「……あーぁ、ついてないねぇ…」

気配に顔を上げれば
先程…殺り損ねた子供…

体に似合わない刀を振り上げて
口の中で、何かを呟いている

「………」

これは、自分が招いた事象
覚悟はしている

「…首、やって良いよ」

どーせ死ぬなら
どうだって良い
苦しくても痛くても

死ぬなら同じ。








「どうしてそんなに甘いんですか」





短い悲鳴が聞えて
子供が血を吹き出したまま、バタリと倒れた

「アンタ…甘いですよ」

現れたのは…黒い面…

「甘い…かなぁ…」
「子供を殺り損ねた挙げ句に殉職
 笑い話にもなりません」

綺麗な刀を戻して
真っ直ぐ見下ろす…

「でも、これが今の俺だよ…イルカ先生」

面を外してもらえない
彼は、暗部の姿をしている

当然だ…

「甘いです…カカシさん」

そう言い残して
姿を消した…

彼は、残った敵を殲滅しに行く…

「…あぁ…本当にまいったね…」

優しい笑顔と温もりを
面で消し去り

面を外して、彼は笑う…

優しく、穏やかに…笑う

「…嘘だって、言ってよ…」

その事実を受け入れられない自分は

死ぬほど甘いのだろう…



〜Fin〜
 

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