月光

□理想論
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一度も振り向かず
真っ直ぐ前だけを見て走った

「………」

部屋の真ん中に座って
窓から月を見上げていた

「何でかなぁ…」

どうして、上手くいかないんだろう
自分が上忍だから?
元暗部だから?

だから…
あの人は受け入れてくれないのだろうか…

「………」

ぼんやりと、そんな事を考えていた

普段なら気付く気配にも
反応が遅れた…

『カカシさん!!』
「…っ」
『カカシさん、居るんでしょう!!
 開けて下さい!!』

声を聞いて、慌てて立ち上がり
玄関を開けた

「カカシ…さん、俺…」
「…あ…中…」

イルカの顔を見た途端
現実に引き戻される

部屋に上がり、正座で
額に滲む汗を手の甲で拭って
息を整えようと、呼吸を繰り返す

「すみません、急に…」
「あ…いや…大丈夫」
「俺…どうしても、今日…言いたくて」
「……うん」
「カカシさん、見てたから
 もう知ってると思うけど」

イルカの瞳が自分を真っ直ぐ捉える…
漆黒で、綺麗だな…と
イルカの瞳を見詰めていた

「俺、好き人が居ます
 えっと…16の時からなんで…もう随分経ってます」
「………」
「その人は、里の英雄の息子で
 元暗部でエリートで…天才で…今は上忍です」
「……うん」
「諦めようと、しました
 俺は男だから、いつか飽きられるって
 いつかは嫌われるって…」

イルカが泣きそうな顔になってきた…
カカシはただ、聞く事しか出来ない

「それでも…好きなんです…
 いつか…失うかもしれないけど
 どうしようもなく、好きなんです…」

カカシの手が…
汗で額に張り付いた前髪を優しく梳いた

「好きです…カカシさん」
「……うん」
「俺は貴方が好きです」
「…イルカ…」
「貴方と、ともに在りたい」

イルカの唇から零れ落ちるのは
綺麗な理想…

カカシの腕が、その理想を乱暴に掻き抱く

「離さないよ…」
「カカシさ…苦し…」
「誰にも譲らない
 離れるって言ったら、俺が殺すよ」
「…カカシさん…」

カカシの唇から零れ落ちるのは
紛れも無い現実

その現実を、イルカの震える腕が受け入れる…

「その時は…殺して下さい…」
「うん…」

鼓膜に張り付いたイルカの声に
カカシが目をつむった…





「ねぇ、聞いた?」
「何、何?」
「うみの中忍の話」

相変わらず、女って奴は喧しい

「どうかしたの?」
「何か、昔から好きな人が居たんだって」
「あ…だから断ってたんだ」
「誤解してたわよね」

待機所の椅子に座りながら
ぼんやりと壁を眺める

「カカシ?」
「うん?」
「今日は帰らないの?」
「うん…待ち合わせしてるから」
「待ち合わせ?」
「うん…今日、部屋に泊まりに行くから」
「カカシ?」

紅とアスマが自分を見ている
何かを言いたそうにしている…

「今日…抱くから」

その一言に紅は俯き
アスマは溜息混じりに煙を吐いた

「昨日、相手にも言った
 同意なら、問題無いでしょ」
「そりゃ、まぁな…」
「確かにそうだけど…」
「理想だけじゃ駄目だって
 しっかり教え込まないと」

クッと、喉の奥で笑って
壁を眺める

「強引にしちゃ駄目よ?」
「解ってるよ」
「まぁ…頑張れ」
「うん」

もうすぐ…
勤務時間が終わる…

大切そうに、理想を抱えたあの人が
自分の前にやってくる…
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