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□untitled
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「あぁもう…おじさん、しっかり歩いてください」

良い店があると虎徹が言い出し、トレーニングの後ヒーロー達で飲み食いしに行った帰りのことだった。
虎徹は好きだと言っていた日本酒を何杯も飲み、店を出る頃にはすっかり出来上がってしまっていた。
立ち上がることもままならない虎徹を誰が送っていくかという話になり、「あんた、バディでしょ?送ってあげなさいよ」というネイサンの一言でバーナビーにその役が託されることになったのだった。

「バニーちゃーん」
「…バーナビーです」
「ね、もう一軒、行こ?」
「…一人で行けるのなら行ってください。僕は嫌です」
「そんな冷たいこと言わないでさぁ」

ひっく、としゃっくりしながら呂律の回っていない舌で虎徹はへらへらと言う。バーナビーは更に眉間に皺を寄せる。

「……酒臭い」
「ね?なんだかおじさん飲み足りないの。行こ?ね?ね?」
「…可愛く言おうったって無駄です。可愛くないです」
「バニーのけちー」

バーナビーの肩を借りてようやくふらふらと歩ける状態の虎徹は、時おり鼻唄を歌ったり「レジェンドはなぁ、」と好きなヒーローの逸話を延々と語ったり、かと思えば突然情けない声になって「かえでぇ!パパはヒーローなんだぞぉ」と叫んだりした。

「…おじさん、耳元でうるさいです。それからまっすぐ歩いてください」

バーナビーはため息をつき、呆れ顔で虎徹を見やる。
虎徹も赤い顔をして、バーナビーをにやにやと見つめ返した。

「…何ですか」
「…いーや、何でもねぇ」
「何です。今絶対何か言いかけたでしょう」
「本当に何でもねぇよ、」
ただな、と虎徹がバーナビーの頭の上を指差す。

「え?」

振り返ったバーナビーの目には、シュテルンビルトの高層ビル群の上にぽっかりと浮かぶ満月があった。

「…あ、月」
「月下美人ってぇより月下イケメンか」

虎徹は自分で言って自分で笑っている。
そんな虎徹を見てやれやれ、と思い、それからまたバーナビーは月を見上げた。
月をまじまじと見たのはいつぶりだろう。彼は考える。そういえばしばらく見ていなかった気がする。もしくはシュテルンビルトの夜が明るすぎて、出ていたとしてもあまり目立っていないのかもしれない。
ふと隣に目をやると、また虎徹と目が合った。

「…バニーちゃん、」
「何度も言わせないでください。バーナビーです」
「月が綺麗ですネ」
「…?そうですね」

虎徹はにやりと笑うと「さぁ、もう一軒行くかぁー」とまたふらふらと歩き出した。

「は?行かないってさっき…」
「いーのいーの、おじさんがおごってあげるから」
「そうじゃなくて!貴方今日飲みすぎですよ」
「いーじゃねーか、おじさんにもね、飲みたい日ってのがあるんですよ」
「意味がわからない…」
「これだから最近の若者は!まったくもう、教養がなってないなァ」

おじさん困っちゃう、とおどけて言って、虎徹はニシシ、と笑った。


20110810

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