〜光と影の鎮魂歌〜
□【第三話】
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「蔵馬が倒れた・・・!!??」
それは、あまりにも突然の出来事だった。
蔵馬と飛影が、幻海の寺の一室で接触した翌日。
あまり体調が優れない中寺へと訪れた蔵馬は、いつもの様に雪菜に部屋を用意して貰い、瞑想に入ったのだと言う。
そこまでは良かった。
が、普段ならば遅くとも日が沈む頃には顔を見せる彼が、この日に限って中々部屋から出て来なかったらしい。
夜だというのに、部屋の灯りが灯っていない。
その事を不思議に思った雪菜は、蔵馬が篭っている部屋へ様子を窺いに行った。
何も無ければそれで良いのだ。
「蔵馬さん?雪菜です。お茶をお持ちしたんですが・・・」
───。
暫く待ってみても、返事は無い。
「・・・蔵馬さん?」
突如、雪菜は言い様の無い不安に駆られた。
こんな近くで、蔵馬に自分の声が届いていない筈が無いのだ。
「・・・・・・。」
勝手に入って良いものか悩んでいた雪菜だったが。
「──っ・・・」
「・・・え?」
──一瞬、中から呻き声の様なものが聞えた気がした。
「・・・蔵馬さん、失礼します。」
意を決し、雪菜は襖を開け放った。
「蔵馬さ・・・」
──そこには。
真っ暗な部屋の中央で、荒々しく息をする蔵馬が倒れていた。
胸を押さえ、大きく肩を上下させている。
「・・・!蔵馬さんっっ!!」
その光景にびっくりした雪菜は、お茶を盆ごと畳の上へと落としてしまう。
音を立てて、湯呑が激しく散ばった。
しかし今は、そんな事はどうでもいい。
ただ事ではないと瞬時に悟った雪菜は、蔵馬の元へと駆け寄った。
「蔵馬さん!?蔵馬さん・・・!!しっかりして下さいっ!」
「っ・・・!!・・・はぁ・・・はぁっ・・・」
急いで蔵馬の体を仰向けにさせようとする雪菜だったが、咄嗟に触れた彼の体温に愕然とした。
『──!!ひどい熱・・・!!!』
苦しそうに歪む顔には、暗闇の中でも判る程に汗が浮かんでいた。
『と、とにかく急いで病院へ──・・・!!』
雪菜はその場を立とうとしたが、その動作は着物をぐっと掴んだ腕に遮られてしまった。
「え・・・」
ふと見ると、蔵馬が苦しそうに呼吸をしながらも、力強く自分の袂を掴んでいた。
そして微かにだが、首を左右に振っている。
「く・・・蔵馬さん?」
「は・・・っ・・・い・・・から・・・っ・・・」
「!?で、でもっ!!」
「だい・・・じょうぶだからっ・・・」
蔵馬は、消入りそうな声で雪菜に言った。
しかし、その間にも片方の手は胸を押さえている。
雪菜は、こめかみを挟む様にして蔵馬の頭にそっと触れた。
応急処置として、自分の治癒能力を使う事を思い立ったのだ。
ポウッと、彼女の両手が淡い光を帯びる。
『とにかく、少しでも熱を下げないと・・・!!』
普段この治癒能力は、あくまでも傷を癒す為に使っているので、蔵馬の様な症状に使った経験は1度も無い。
大きな不安が雪菜を襲った。
けれど、今はそんな事を言っている場合ではないのも分かっている。
少しでも蔵馬が楽になる様にと、雪菜は必死で両手に神経を集中させた。
──そんな緊迫した状態が暫く続いたが、蔵馬の苦しそうな表情が緩む様子は無い。
それをずっと目の当たりにしていた雪菜は、段々と混乱し始めていた。
『どうしよう・・・!!どうすればいいの・・・!?』
雪菜はギュッと目を瞑る。