思いっきり妄想してます。
メインの日記とはかけ離れたテンションなので注意!!


















 場所は王手予備校。有名私立の医学部に通う柳生が何故、その場所で時間を潰しているのかというと、長年の付き合いの友人と後輩に理由がある。
 ラウンジのテーブルを挟んで、丸井ブン太と切原赤也。二人とも英語のテキストに向かい、悪戦苦闘している。ノートの横には、現代文、古典、世界史などのテキストやら辞書やらが、まるで彼らを苦しめる順番待ちをしているようにどっしりと構えている。

 「あー、もう駄目だ!!」
切原がペンを投げ出した。それにつられて丸井も、背もたれにだらしなく体重を預け、窓から僅かに見えるよく晴れた青空を見上げた。こんな日はテニスで汗を流したいぜ、とどちらかが言った。柳生も、また、そう思っていた。
 彼らは、柳生が中学三年生のときに共にテニスで全国制覇を成し遂げた大切な仲間だった。あの時の感動を思い出せば、すぐにあの時に戻れるような気がしていたが、それももう五年も前のこと。それぞれが身体的にも、精神的にも成長し、高校も卒業して、自分の人生の岐路に立っているのだ。
 「まったく…どうして理系の私が、文系志望のあなた方の勉強を見なくてはいけないのですか」
別にいいじゃないっすか、柳生先輩、昔から頭言いし、と切原は相も変わらず陽気に言った。
 
 柳生はこの話の依頼を受けた時に、真っ先に柳に代わりをお願いしようとした。
 柳は文型の大学に進んでいたし、何より物事を教える仕事は、彼のような時たま恐怖を感じさせる性質の人間の方が向いていると思ったからだ。しかし、柳はこの夏、三週間の短期留学で日本を離れていたのだ。

 切原は現在18歳。もうすぐ19歳になる。
 勉強は嫌いだが、テニスやってたいし何よりまだ働きたくないし、と動機は不純なものの高校に在学中から大学進学をするつもりだった。一番手っ取り早く合格をもらう方法は推薦だ、部活も熱心だし有利だろう、と担任の教師に言われていたが、普段の成績が目も当てられない程だったので、諦めざるを得なかった。
 こうして浪人して大学進学を目指してはいるものの、中学校一年生から積み重なってきた六年分の英語を、今更一年間でマスターしようなど無理に等しい。
 赤也はやればできる子だね、と褒めてくれた幸村も、今は地方の大学に進学してしまったので、どうもやる気が出ないらしい。

 「幸村クン、山形だもんなー。てゆうか山形て、本当に『だべさ』とか使うの?」
また無駄な話を始めて…、と柳生は呆れ返った。
 丸井は既に二十歳の誕生日を迎えている。しかし、その愛らしい風貌は中学時代から変わっておらず、コンビニで酒やタバコを買う時に身分証明書の提示を求められたりしないだろうか、と柳生は密かに心配しているが口には出さない。
 今ここでその事を言ったら、真田副部長ならあの時でも全然平気だったと思いますよー、と切原が言い出し昔話に花が咲いてしまうと思ったからだ。

 丸井に至ってはさらさら大学進学の意志はなかった。音楽にこれでもかという程に熱をあげ、高校を卒業してからはというものの、毎晩重そうなギターを抱えライブハウスを点々としていた。
 卒業前にも、柳生は彼がバンドを組んでいるという話はジャッカルから聞いていた。そういえば中学時代にも、部室の隅にギターが置かれていたな、と柳生は後になって気づく。
 ジャッカルは、ブン太は激しくラテン系だからついていけない、と言っていた。可笑しな話である。

しかし、丸井も前述のように既に二十歳。音楽で飯を食っていけるのはほんの一握りで、いつまでも夢ばかり追っていてはいけないと気づき始めていた。世間では、自分と同じ年の人間も社会に揉まれているというのに、自分はいつまでも甘い蜜を吸っている。年の離れた二人の弟のことを考えると、なおさら親には申し訳ないことをしている。
 何か変わろうと、選んだのが大学進学への道だった。


「そういえば」
丸井が、思い出したかのような素振りで口を開く。
「アイツ、どうしてんだろうな」
その話題の解禁に、切原が後に続く。
「…一度も連絡よこさないんですもんね、あの人」




(銀色の尻尾は…、)
(掴まれることなく)
(するすると)






「彼は…、
仁王くんは、私にとって特別な存在でした」



 突然の柳生の言葉に、丸井と切原はお互い顔を見合わせた。
 二人とも大きな瞳をこれでもかと言うほどに開き、一呼吸置いてから、「だよな〜」と吐き出した。

 「あの関東大会でのダブルスは伝説っすよ」
「違反だろ」
言いたい放題の二人を前に、柳生は目を細めて少しだけ微笑み、戻れない過去を懐かしく思っていた。


























の、載せちゃった…!

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