お題

□たった一人の貴方に贈る11の言葉
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「いってきまーす。」

セミ達に負けないような元気な声で、今日もリキッドは家を出て行く。
その手には何故かタオルが。
最近黄昏時になると出かけるようになったリキッド。
気にならないと言えば嘘になる。
プライバシーという、固い言葉が俺の頭をよぎる。
ファンシーヤンキーなリキッドにだって、他人に干渉されたくない部分だってあるはずだ。

「じゃぁ僕は出かけてくるからな。」

「わぅ!!」

ウンウン悩む俺の横を、何も知らないちみっこが歩いていく。
何処に行くのかと問えば、タンノに夕飯を誘われたのだと答えが返ってきた。
あんなナマモノとよく仲良くできるよな、なんて思わず感心してしまう。
俺だったら絶対ガンマ砲を食らわして、そこでその話をお流れにする。
いってらっしゃい、と手を振れば、元気に振り返される。

「さて。俺はどうしようかな。」

1人になってもらした声は、意外と大きかった。
ちみっこに気をとられていて、しばし忘れていたリキッドの行方について俺はまた考え出した。
散々(といっても1分少々だが)悩み、好奇心に負けた俺は今リキッドを探していた。
なるべく足音を消して、俺は手当たりしだいにリキッドが行く場所を廻った。
途中ナマモノによって足止めを食らったが、リキッドが家を出てそれほど時間は経っていない。
絶対見つかる、どこか確信めいたその考えが俺を動かした。

そしてとうとう俺はリキッドを見つけた。
鬱蒼とした森に、美しい水が蕩う。ここはホシウミ湖。
夜になれば湖の水面には、キラキラと宝石をちりばめたような星が映る。
今も空にポツリポツリと星が浮かび、ゆらゆらと揺れていた。
リキッドはそのホシウミ湖の水辺に立ち、揺れる湖を見つめていた。
遠くからだからよくわからないが、いつもよりどこか優しく見えた。

俺はふと、リキッドが見つめる湖に目をやる。
すると先程まではっきりと揺れていなかった水面が、ザバリという音共に大きな波紋を広げた。
そこから現れたのは、俺のよく知る人物だった。
引き篭もりのせいで日焼けしていない白い肌、水に濡れて美しく光る翡翠の髪状。
何も塗っていないのにうっすらと赤い唇。
そいつは黙っていれば普通の人間、口を開けばストーカーなアラシヤマだった。

「おーい。」

リキッドは腕を振って、アラシヤマを呼ぶ。
アラシヤマもチャプリと水から腕を出し、小さく手を振ってゆったりと泳ぎだした。
ゆったりと流れるように泳ぐアラシヤマは、リキッドが立つ水辺へと近づく。
だんだんと浅くなり、アラシヤマは途中立ち上がりゆっくりと歩いた。
アラシヤマはその身に一切服を纏っていない。
男の裸なのに、意外に綺麗で俺は思わずアラシヤマの裸を見つめていた。
アラシヤマは極自然にリキッドに腕を伸ばし、リキッドも極自然にアラシヤマの腕を掴んで優しく水辺へと上げた。

「また来はったん?」

「いいじゃねぇか別に。」

ふんわりと笑ったアラシヤマに、どこか照れたようにそんなアラシヤマの体にタオルをかけてやるリキッド。
俺はどこかこの2人に違和感を感じた。
あれ?こいつらこんなに仲良かったけ?
つーかアラシヤマ、なんで俺とリキッドで態度を変えてんだよ。
どう見ても、リキッドに接してる時のが素じゃねぇ?
言葉にできないモヤモヤを持て余しながら、俺はただじっと2人を見た。

アラシヤマは手渡されたタオルで体を拭き、そのタオルをリキッドに渡す。
そして草むらに置いてある服を拾って、ゆっくりと着替え始めた。
リキッドは着替えているアラシヤマをジッと見つめている。
アラシヤマはそんなリキッドの視線に気付いたのか、急いでリキッドに背を向けた。

「そないに見ぃへんで。恥ずかしおすやろ?」

「あ。悪ぃ。つい。」

はにかむように言うアラシヤマの言葉に、リキッドは頬を赤く染めていそいそとアラシヤマに背を向けた。
何だこの甘ったるくてねっとりした空気は。
胸を占めるモヤモヤ感がピークになり、俺はその場を足早に去った。


そしてなぜか、この胸を占めるモヤモヤの意味に気付いてはいけない気がした。


-終-


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