お題

□たった一人の貴方に贈る11の言葉
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最近同じ夢を見る。
どうして夢とわかったのか。
それはどこもかしこも真っ暗な空間の中に、俺は立っていたからだ。
音も、温度もないその世界の中で、俺はたった1人で立っていた。
それがこれは夢だと俺に教えたのだ。


「ハジメはん」


聞きなれた柔らかな音が、暗闇を震わせる。
俺の目の前から赤い炎が燃え上がって、消えた時にはあいつが立っていた。
内側から光を放っているように、白い肌がボンヤリと暗闇に浮かび上がる。
赤い唇が弧を描いて、瞳もやわらかく微笑んでいた。
はかなくて綺麗なその微笑みは、俺が好きなあいつの表情の1つ。
俺は、あいつに触れてくて手をのばした。

「アラシヤマ」

あともう少しで、頬に触れそうな時。
忌々しいあの声が、あいつの名前を読んだ。
あいつは俺の手なんか無視して、声がした方を向いた。
花が綻ぶような、それはそれは美しい笑顔で。
そして甘い吐息を漏らしながら、あいつはヤツの名前を呼ぶんだ。

「シンタローはん」

あいつの声が光となって形となって、俺とあいつの目の前に、おいでと手招きするヤツがあらわれた。
あいつは困ったような顔で、俺とヤツを交互に見つめた。
俺とヤツが対立している仲だと知っているから。
けれどヤツは俺の事なんか気にもせずに、人がよさそうな顔であいつを呼ぶから。
あいつはニコニコと笑いながら、そっちへ行くんだ。
そう、いつもそう。
"行くな"何度俺が叫んでも、あいつはいつもヤツの所へ走るんだ。
ヤツがあいつを呼ぶ限り、何度止めても無駄なだと分かっている。

俺の叫び声を無視しているのか聞こえないのか、一度も振り返りもせずにあいつはヤツの傍へ行くんだ。
そして、あいつがヤツに近づくと。
ヤツの掌から、真っ白な光が放たれた。
細い体が光に包まれ、紙くずのように宙を舞った。
地面に落ちたあいつに急いで駆け寄れば、静かに笑いながら息絶えそうなあいつがいて。

「シンタローはんはいけずどすなぁ。」

そう言って眠るんだ。
そしてそのまま目を覚まさない。
何度も何度もその体を揺さぶっても、閉じた瞼は開かない。
喉が枯れるんじゃないかってくらい叫んでも、ピクリとも動かない体。
恐ろしいくて、毎夜叫びながら飛び起きている。
隣りを見れば、静かに寝息を立てて眠っているあいつを見て安心する。


あぁまだ生きている。


と。
どうか、本当にこんな事が起きなければ良い。



-終-


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