お題

□たった一人の貴方に贈る11の言葉
1ページ/1ページ


アイツが遠征に行ってから5ヶ月が過ぎた。
俺はこうしてたまに、アイツの部屋に来ては、残り香を嗅ぎ気分を落ち着ける。
いればいたで鬱陶しいのだが、いなきゃいないで妙な焦燥感を感じてしまう。

ちっくしょう。アラシヤマのくせに。

勝手に人の心を乱しやがって。
1人で悪態をつきながら部屋を見回す。
ソファを見ると、微笑みながら座っていて。
台所を見ると、苦笑いをしながら酒の肴を作って。
アイツの部屋だからどこもかしこも、アイツの記憶を吸い込んでいる。

俺が見つめるとアイツの記憶を、部屋がはき出す。

ココに来るたびに、辛くなり懐かしくなる。
そろそろ30にもなる大の男が、同年代の男にそんな感情を持つのはあまりいい目で見られない。

そんな事ぁ知ってる。

でも、やはり時間があると、スペアキーを使ってこうして部屋に来てしまうのだ。
アイツとの記憶に触れて、アイツの部屋の匂いを嗅いで、消えたはずの部屋の温もりをなぞり。
少しでも、自分を満たしたかった。

あと1ヶ月であいつは帰ってくる。
はやくアイツの優艶な笑みを見たい。
その頬に触りたい。
アイツを傍に感じたい。
この考えはアイツには口が裂けてもいえない。

でも。

今回だけは


「久しぶりに言ってやるか。」


-会いたかった-

と。


その言葉を自分がつむいだ後の、相手の顔を想像すると笑みが漏れる


「早く帰って来いよ。アラシヤマ」


そう部屋に言い残して、俺は部屋を後にした。




-終-

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ