いつの間にか憶えてしまったあいつの――甘い匂い。





強い風が肩を吹き抜ける。
あいつの匂いを漂わせて。


「……あっちか」


何となく。
あいつの匂いを嗅いだらあいつの顔が視たくなった。
別段急ぐ訳でも無くアポロは歩を進める。
数十mは歩いただろうか。
向かう先――基地から離れた森には金髪の少女がやはり居た。


「シルヴィア」


少し離れた処から声を掛けてみる。
少女――シルヴィアはくるりと振り返りアポロを視ると大きく溜め息を吐いた。


『やっと見つけたぁ…』

「探してたのか??」


云いながらシルヴィアに歩み寄る。


『お昼出来たのにあんたが帰って来ないから』

「態々来てくれたのか??」

『私だって好きで来たんじゃないわよ!!』

「はあ??じゃあ何で」

『ソフィア教官に呼んできてって云われたの。断る訳にもいかないし…』

「ふーん…成程な」

『それじゃあ早く帰ろ??』

「ああ」


二人は基地へと歩き出す。
が、アポロには気掛かりな事がまだあった。


「…なぁ」

『何??』

「お前走って来たのか??」

『……そうだけど何で??』

「いや…汗かいてるし疲れてねーのかなって」


良く良く視るとシルヴィアの額にはうっすらと汗が滲んでいる。
基地から森まではそれなりに離れているから走って来たのなら多少は体力を消耗する筈だ。


『疲れてない…事も無いけど…そんな大したことじゃないし』

「んー、でもまぁ俺が疲れさせたんだからさ」

『だから??』

「おぶってやろうかなと」

『えー…あんたにおぶられんの??良いわよ、あんた臭いし』

「今の結構傷つくぞ」

『へぇーそう。そんなことより早く歩いてよ』

「…はいはい」


(この野郎人が折角親切にしてやってんのに…)


アポロは少しご機嫌斜めになった。


(って言うか、この間は自分から抱き着いたくせに『臭い』は無くねぇ??)


しかもこの様な事まで思うようになってしまった為に自然と早足になり、半ばシルヴィアを放っていってしまった。


『ちょっ…待ってよアポロ!!』


呼び止められてやっと我に返ったアポロだが、シルヴィアへの不満は募るばかりだった為つい悪態を吐いてしまった。


「お前が早く行けっつったんだろ」

『放っていかなくても良いでしょ??』

「…文句の多い奴だな」

『はぁ!?何よその態度!!元々迎えに来てあげたのは私でしょ!!』

「………だからって臭いはねぇだろ」

『…もしかして気にしたのそれ??』

「当たり前だボケ!!」


((そんなことで本気で怒るんだ…))


何だか可笑しくなってシルヴィアはつい笑ってしまった。
それで更に機嫌が悪くなったアポロはその場に座り込み不貞腐れる。


『あぁー御免ってば。機嫌直してよ』

「誰がお前の云うことなんか聞くか」

『お願いだから帰ろ??』

「嫌だ」

『もう…じゃあ何でも云うこと聞いてあげるから。それで機嫌直してよ』

「何でも??」

『うん』

「絶対だよな」

『そうよ。だから帰ろ』

「……分かった」


((意外と…あっさり了解したな…))


少し気になって考えていると、立ち上がったアポロに手を引かれた。


『きゃっ!?』


倒れ込むシルヴィアをアポロは抱き止め、その儘きつく抱き締める。


『いったぁ〜…急に何…』

「これだけ聞いてくれれば良い」


耳元で囁かれたいつもより低く感じられるアポロの声にシルヴィアは身体が固まってしまった。
少しだけ身体が離されアポロの顔が目の前に現れる。
3cm程しか無い二人の距離に顔が熱く火照る。
シルヴィアは直にアポロが視れなくて顔を背けるが、それを許さないと云うようにアポロはシルヴィアの顔を両手で包み自分の方へ向かせた。


「大事なことだからちゃんと聞けよ」


瞳も、いつもと違う。
何だか落ち着いたような不思議と引き込まれる光を放っているような。
よくは分からないのだけれど。


『…な…に??』


漸く開くことが出来た口で尋ねる。
アポロはそっとシルヴィアの耳元に近づく。
それこそ息が掛かるくらいに近い距離まで。


「あのさ…」

『う…ん…』


少しだけ流れる沈黙。


「……ずっと…俺の傍に居てろよ」


ドキン


跳ねる心臓。
上手く出来ない呼吸。
上がる体温。
真っ白になる思考。
この言葉一つで私は壊れそうになってしまった。


ドキンドキンドキン…


鳴り止むことのない心臓はアポロにまで聞こえそうな程大きな音を響かせた。


「分かったか??」

『……う…ん…』

「ほんとに大丈夫かよ」

『要するに離れなかったら良いんでしょ??』

「まぁ…」

『だったら』


シルヴィアはアポロの身体から離れるとアポロの手を取り、自分の指を彼の指に絡めた。


『ずっとこの手を離さなかったら良いよね』


笑いかけてぎゅっと手を握ってみる。


「…そうだな」




返される私より少し熱い貴方の温もり。







2008.07.13.

一週間程長旅に出ておりました。
更新出来なくてすみませんでした(泣)
ずっと旅先で考えていた話です。
たとえ更新出来なくても私の脳内は90%アポシルです。
最後微妙かもですね(--;)
最後まで読んで頂き有難う御座いました。

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