TROVADOR

□浴衣美男
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「暑中お見舞い申し上げます!!」



いきなり召集をかけられた中庭で、村田がこんな事を言った。
昨日までは無かったはずの『何か』にかけられていたデカイ布を、勢いよく取り払うと・・・そこには・・・・・・。


+浴衣美男+



「・・・・・・何コレ・・・・・・」
「見てのとおり、古式ゆかしい日本の夏の代名詞、縁側と浴衣」
「いや、だからぁ。おれが聞きたいのは・・・」
「言ったろう?暑中見舞いだよ。僕とヨザックからのね」

どうやら、猛暑の中に関わらず各々の仕事に取り組む皆に、27代魔王的避暑をと考えての企画らしい。
ヨザックは、縁側設備や木製ベンチ等の作成と設置。
村田は、アニシナとの合作「ユカタ縫うぞう君」にて大量の浴衣を製作。

「凄いんだよ、この「縫うぞう君」は!バスト・ウエスト・ヒップなどなど、サイズを入力するだけで、浴衣が出来上がってしまうんだ。しかも、仕上がりまでの時間は、なんとたったの十秒!」
「へぇ〜・・・。そりゃあ」
「おや?つれない返事だね、渋谷。この企画は君としてはアウトだったかな?」
「いや。良いと思うよ。警備の兵の人も交代制で、城の人全員が楽しめるようにはなってるし、確かに最近暑かったし、縁側とか浴衣はかなり涼しげだし・・・・・・」
「じゃあ、何でそんな不満そうな顔してるのさ」

村田に見つめられ、ユーリはふてくされた表情でカキ氷(イチゴ味)を口に含んだ。
しゃくり、と氷の音がする。

「・・・・・・・・・・・・だってさぁ、おれ生粋の日本人なのに、浴衣人の中で浮くんだもん・・・・・・」
「そう?僕の感覚では、双黒持ちの僕らこそ、この中で最も浴衣が似合ってると思うんだけど?」
「でも、見てみろよ。アイツとかアイツとかアイツとかアイツとかっ!!」
「フォンヴォルテール卿とかフォンビーレフェルト卿とかフォンクライスト卿とかヨザックとか?」
「そう!グウェンは見た目のカラーリングも日本向きなうえに、渋さがめちゃくちゃ似合うし」
「フォンビーレフェルト卿は、青い色似合ううえに、小柄だし。金髪外国人が意外と浴衣とか着物似合っちゃうのと同じ原理だね」
「ギュンターはあのビューティフォーなロン毛が麗しいし。何アレ、団扇代わりに扇子持たせたら、どこの平安貴族様?って感じじゃん」
「それに、ヨザックは・・・・・・・・・まあ、君の考えてる事はわかるよ」
「だろ!あの完璧な肉体に、浴衣!しかも軽く着崩してるあたりがまた、美しい筋肉見せつけられてるようで・・・!!」
「・・・・・・そこで筋肉を語っちゃうのは、君ぐらいだろうね・・・・・・」
「だって、ガタイはいい方がいいだろ?」

そんなユーリの言葉に、思わず自分の体を見下ろしてしまう二人。
はぁ・・・と、同時に溜め息。

「貧弱な肉体が悲しい・・・・・・」
「右に同じ・・・・・・。あれ?そういえば、ウェラー卿の姿が見えないようだけど?」
「んー、なんか仕事あるらしくて。でも、終えたらすぐ来るって言ってたし・・・あ、あれ。来たんじゃね?」

ベンチから立って駆け寄ろうとしたユーリだが、目を見開いて立ち止まった。

「渋谷?」
「・・・・・・っ・・・・・・っっ」



「コンラッドの裏切り者ーーーー!!!」


絶叫に驚きながらも視線をやった村田は、即座に納得した。

「美人だねぇ〜〜」

柔らかい笑顔を浮かべて小走りする、ウェラー卿コンラート。
爽やかな茶の髪は、夏の風にさらりと流され、銀の散る瞳が陽光に煌めく。
浴衣を着る事で儚さの浮かんだ身体に、綺麗に覗く鎖骨。
見惚れる者が、はたして何人いた事か・・・。

「コンラッドのバカバカーー!!」
「ユ、ユーリ?」
「なんでそんなに似合うんだよ畜生ー!」
「あ・・・ありがとうございます・・・・・・・・・?」
「ちくしょー!ちくしょー!!」
「はいはい、泣かないの。ほら、ウェラー卿が困ってるだろ?・・・いやね、僕としては、君が困るぶんには一向に構わないのだけれど」
「猊下・・・・・・」


◆◇◆◇◆
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