TROVADOR

□Love me tender
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ヨザックの表情が、唖然としたものへと変わった。

「珍しいな。どうした?」

常であれば、小さい頃は可愛かっただの、昔は忠実な部下だったのにだのと、文句を言ってくるというのに。

「やけに素直じゃん?」
「別に・・・。ただ、偶にはこういうのもいいだろう、と思って」
「そっか」

ヨザックは知っている。
今日が、フォンウィンコット卿スザナ・ジュリアの命日である事を。
だからだと、納得した。
きっと、未だ癒えぬ痛みが、コンラートから気持ちを偽る余裕を奪っているのだろうと。

「なぁ・・・コンラッド」

顔を肩に埋め、両腕できつく抱きしめて、ヨザックが問うた。

「・・・オレじゃ、スザナ・ジュリアの代わりにはなれないか?」

息を呑む気配が、伝わる。

「オレでは、彼女の死によって失われた部分を、埋める事は出来ないか?」
「・・・・・・・・・でき、ない・・・・・・」

コンラートを抱く腕が、少しだけ力を強めて強張った。

「出来ない。・・・・・・だって・・・お前は、ジュリアじゃないから」
「コンラッ」
「お前は!・・・お前は、ジュリアの何倍も何倍も、愛しい存在だから!」

己を掻き抱く腕に、そっと触れる。
そこには、死者にはない暖かさがある。

「もう、俺の心の中は、お前でいっぱいなんだ。だから、欠けた部分を補ってくれなくたって、いい。ただでさえ、お前の事ばかり考えてしまって大変なんだから、これ以上増やされてたまるか」
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