TROVADOR

□Love me tender
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+Love me tender+

真夜中。
小さな旋律が研ぎ澄まされた空気を揺るがせていた。
深い響きを持ったそれは、歌声。
メロディーに軽く乗せられただけの歌詞は、この国に存在しない言語。
口ずさんでいる者―――ウェラー卿コンラートが、現魔王陛下の魂を運ぶ為に異世界へ赴いた先で、今から二十年も前に聞いた歌だった。
ボストンという名の地で、『彼女』の魂が『彼』へと変わるのを見届けるまでの僅かな間に記憶し、一度だけ『彼』の為に歌った曲。

「Love me tender・・・」

ずっと、待ち続けた。
あの幼子が、成長した姿を自分に見せてくれるのを。
新たな王として、この国を導いてくれるのを。

守るべき者、守りたいと思う者。
守護の念を抱く双黒の少年を脳裏に思い描きながら、コンラートの唇は音色を紡ぐ。

「And I always will・・・・・・」

最後の音が風に溶け込んでいく。
その空気を吹き払うかのように、コンラートが溜め息を吐いた。
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