TROVADOR

□違えぬ誓いを君に捧ぐ
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青峰っちと戦った。
そして、負けた。

黒子っちが、チームの意味を教えくれたおかげで、仲間の大事さを知れた。
そんな仲間を、キャプテンがどれ程の思いを抱えて率いているのか知った。
俺の一番大切な人が、どれだけバスケに情熱と責任を抱いているのか知ったから。
『憧れ』を捨ててでも、勝ちたかったのに・・・・・・。

「クソッ・・・」

今、俺は自宅に戻ってきている。
選手の負った傷を少しでも深くしないようにと、監督が列車を取ってくれたのだ。
そうでなければ、まだ自分たちは大阪にいただろう。
でも、一人ぼっちの家に帰ってくるぐらいなら、向こうにいた方がまだマシだったかもしれない。
家族は、明後日まで旅行に行っていて家にはいない。
どうせ皆が帰ってくるまでは戻ってこられないからと格好つけて出て行ったってのに、結局負けてこの有様だ。
体を受け止めてくれるベッドが、夏場なのにいやに冷たくて虚しくなる。
自分の体を抱き締めて、足も抱え込んで丸くなる。
それでも虚しさが消えてくれない。

ダメだ。
足りない。
俺だけじゃ、この空虚な感覚を埋められない。

ふ、と頭に浮かんだのは、何より愛しい人の姿。
けれどその考えを振り払う。
それこそダメだ。
だって、俺なんかよりもずっとずっと、あの人は深く傷ついたんだから。
俺のわがままで重石を増やしたらいけない。




でも。
でも・・・・・・。

「会いたい・・・、センパイ・・・」

ケイタイに伸びる手を止められなかった。

「・・・し、もし、・・・笠松さん?」
『何だ?』
「先に謝っときます。ごめんなさい。・・・これは、俺のわがままっスから、聞き流してもらっても構わないんスけど・・・・・・今、俺、すっごく貴方に会いたいんです」
『・・・・・・・・・別れて数時間しか経ってねぇだろ』
「はい。・・・でも、どうしても貴方に触れたくて・・・。色んな気持ちがごちゃ混ぜになってて、一人じゃどうにも出来なくて・・・。笠松さん、会いたい。今すぐ会いたいっス。ごめんなさい。迷惑だってのは分かってるんスけど、それでも・・・・・・会いたい。俺の体全部で、笠松さんを感じたい・・・・・・」
『・・・・・・当たるぞ、確実に。オレだって、胸に色々溜まってんだ。八つ当たりしない自信が無い』
「イイっスよ・・・。むしろ嬉しいっス。だって、それだけ強くセンパイを感じられる。・・・もどかしいの、全部俺に吐き出して下さい」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
「センパイ・・・?」

ピンポーン。

「ぁ、誰か来たみたいっス。ちょっと待ってて下さい」

携帯電話を耳に当てたまま、階段を駆け下りる。
こんな時間に誰だと思いながらドアを開けた先にいたのは。

「え・・・?」

オレと鏡映しに電話を構えた、笠松さんだった。

「なん、で・・・?」
「前に言ってたろ、IHの時に家族が旅行に行くから、家に誰もいなくなる、って」
「俺の話したこと、覚えててくれたんスね・・・」
「・・・部屋に一人でいて、お前も一人なのかと思ったら、会いたくなった。だから来た。インターホン押そうと思ったら、ちょうどお前から電話が来たんだよ」

顔が、嬉しいのと、あとなんかよく分かんない感情で、ぎこちない笑顔に歪む。
ドアノブを握る手が震えた。

「ハハッ、すげぇ、スね」

笠松さんが携帯を耳元から離し、ボタンを押す。
通話が切られ、それまで二重に声を捉えていた耳に、ツーツーと音が届いた。
オレの方もと、電源ボタンに指を伸ばす。
待ち受け画面に戻ったのを確認し、携帯を閉じる、のと同時に、顎を掬い取られた。

「ぇ」

笠松さんからのキス。
支えを失ったドアが、バタンと音を立てた。



◆◇◆
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