TROVADOR

□傷に宿る運命
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「教えてもらった通り名は今でも覚えてる。あいつの名前は、『白夜叉』・・・」

指から逃げようと身をずらした銀時の行動が仇となり、指先は記憶の男と合致する場所へ。
そこに傷の痕がある事に気づいて、長谷川の表情が凍った。
バサリと音を立てて捲られた布団から現れる白い肌には、弾丸に射抜かれた傷跡。

「あ・・・、まさか・・・・・・」

常々、疑問に思ってはいたのだ。
どうしてこの美しい恋人の体には、似つかわぬ醜い傷がたくさんあるのかと。
今、ようやく合点がいった。
『手柄』は、自分だけではなかったのだ。

「銀さんが、『白夜叉』・・・?」
「オ、レ・・・・・・オレは・・・・・・」

多くの人を殺したのは、変えようのない事実なのだ。
たとえ絶縁を申し出されても、文句は言えない。
覚悟を決めて、銀時は口を開いた。

「・・・オレが、白夜叉だ。確かに覚えてる。オレは、戦場で一人生かした。どうしてかわからないけど、気まぐれに、命を奪わずにおいたんだ。それがまさか、長谷川さんだったなんて・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「長谷川さん?」

無言の長谷川を、振られる事に怯えながら見上げる。
恐る恐るのその行為が成される前に、銀時は抱きしめられていた。

「へっ!?ちょ、長谷川さん!?」
「よかった!よかったっ!!」
「え?え?」

てっきり嫌われるだろうと思っていた銀時には、長谷川の言動が理解できない。
何故、よかったなどと言うのだ。

「銀さん、俺さ・・・」

抱きしめた形そのままに、長谷川は言う。

「ずっと、忘れられなかったんだ。どんな女と付き合っても、ハツと結婚しても、・・・銀さんとこうなってからも・・・、白夜叉の事が、忘れられなかった。何でだって、何度も何度も考えた。考える度に、どうしてか胸が疼いて、もしかしたら恋心なんじゃないかって、ようやく気づいた。でも、きっともう二度と会えない相手だと諦めて、けど諦められなくて。誰と愛し合っても、いつも罪悪感が伴ってた。本当はこの人より白夜叉の方が好きなんじゃないだろうか、ってな。なのに、なのに・・・!一番愛してる銀さんが、白夜叉だったなんて・・・!!」
「白夜叉が好き、って・・・。だって、人殺しだよ?」
「国の為に立ったが故の行為だ。仕方ないとは言い切れないが、殺しの罪なら、俺だって同じ。志を捨てた分、俺の方が余程罪人だろう」
「長谷川さん・・・」
「銀さんが俺を殺せなかったのは、きっと運命だ。こうして後に出会う為に、俺は生かされた。ああ、どうしようか。もう銀さんを放せないよ、俺!」

ぎゅうと強く抱かれれば、100%真実の想いなのだと伝わってくる。
嬉しさから、薄い涙の膜が小豆色の瞳を覆った。

「ココ、痛かっただろ?」

撫で上げる腰には、刀傷。
命を取りたくないと、刀を振る瞬間に思った。
けれど足を撃たれた恨みと、敵を倒さなければならない使命とで、斬らないわけにはいかない。
だから、急所を斬ったのだった。

さぞかし痛かっただろう。
動けない苦しみは、胸の内を傷つけただろう。
申し訳なさが、心に染みる。

「痛かった。けど、コレをつけたのが銀さんだと思うなら、全部忘れられる。俺の方こそ、せっかくの肌を、一つ傷つけた。貫通する方が、痛いんじゃないのか?」
「オレは、痛いのは慣れてるから」
「そっか。銀さんは俺なんかより、ずっと大変だったんだな」
「でも、その分の幸せを、今、長谷川さんから貰ってる」

とうとう零れ落ちた雫を隠そうと、抱かれる胸に頭を押し付ける。

「あの時、殺さないで本当に良かった・・・」
「俺も、生き残って良かった」

胸を濡らす水を感じながら、何度も銀時の頭を撫でた。



「銀さん。・・・絶対に放さないよ、俺の運命の人」





【End】
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