TROVADOR

□傷に宿る運命
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「銀さんと会う前の俺は、まあ、長い物には巻かれる人間だったわけで。あの時、たくさんの侍が天人と戦おうと立ち上がっていた中で、誇りなんて言葉を知らないかのように、あっさりと天人側についた。向こうから渡ってきた銃器を扱ってみたら、案外才能あったらしくてね。そのまま戦場行きさ」

未だ忘れぬ発砲の感触を思い出すように、手を何度も開閉した。

「小さな戦を治め続けて半年、前線に出された俺は、そこで手柄を得た。手柄って言っても、たった一人で敵を倒したとか、そんな武勇伝じゃなくて。俺自身からしたら、どっちかっていうと恥なんだけど、お偉方はよくやったと俺を褒め称えた」
「恥って、どうして」
「俺は、その戦で大怪我をして病院に担ぎ込まれた。そのまま入院して、さあ治ったぞと出た時には、もう攘夷戦争は終わったも同然だったのさ。本当だったら、腹切って死にたくなる程の恥だろう?俺が切腹せずに済んだ理由はただ一つ。俺の戦った相手が、攘夷志士の中で最強と謳われる侍だったからだ。そいつを相手にして生き残ったヤツは一人もいないらしく、更に怪我を負わせたとなれば、確かに英雄だろうな」
「最強の、侍・・・・・・」

嫌な予感が銀時に纏いつく。

「俺は銃、向こうは刀。リーチが全然違うってのに相打ちに持ち込めるんだから、やっぱりあの男は強かったんだろうなあ。しかも、医者の話によると、俺の斬られた場所は、命を奪わずに相手を長期間動けなくする急所らしくて、一瞬で人それぞれのその位置を見極めるなんて、殆ど不可能なんだと。ホント、どんなツラした奴だったのか、見てみたかったぜ」
「え?顔、見てないのか?」
「ああ。頭と顔を布で覆ってて、見えたのは目元だけ。ま、それも逆光で全然見えなかったけどね」

頭部を布で覆っていたと聞き、銀時は顔を強張らせた。
覚えがあるのだ。

一度だけ、顔に付いた天人の血を落とす間が無く、しかしそのまま人間と戦うのが嫌で、顔を隠した事があった。
そして、その折、左の太ももを銃で撃ち抜かれた。
記憶を反芻すれば、相手は自分とそう年の変わらない青年だった気がする。

「その時の傷跡が、腰のコレ。後から、相手がどんな強い奴だったのか聞いて、驚いたよ。よく死なずに済んだと胸を撫で下ろしたさ。しかも負傷させたってのが、これまた驚きだ。確か、左の大腿を撃ち抜いたんだったかな?」

過去を思い出しながら、無意識に長谷川の指が銀時の腿を這う。
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