TROVADOR
□傷に宿る運命
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+傷に宿る運命+
「あれ?長谷川さん、こんなトコに傷があるよ?」
それは、情事を終え、二人して柔らかいベッドに身を沈み込ませていた時の事。
向かい合う長谷川の左の腰に、深い傷跡があるのを見つけた。
一瞥してわかる、自身にも数多刻み込まれているその痕。
銀時は、刀傷をそっと撫でた。
「昔の?」
「ああ」
今でこそマダオだが、長谷川泰三はかつての入国管理局長。
出会う前までの事を、そういえばあまり知らなかったなと、ふと思った銀時だった。
「局長って、すごい高位だよな。どうやってなったの?コネ?」
体を寄せ、長谷川の胸に頭を預けて訊ねる。
「んなコネがあったら、今ここでマダオなんてしてないよ」
「そーだね」
銀時が笑うのに合わせて揺れるふわふわの髪が、長谷川をくすぐった。
「笑うなよ、くすぐったいから」
身じろぎのついでに、銀時の体を包み込むように腕を回した。
すかさず擦り寄ってくる様が、動物的で本当に愛らしい。
触り心地の良い髪を撫でながら、続きを語る。
「アンタ相手にはあんま話したくないんだが。俺はただ時間が長かっただけだよ」
「時間?」
「そう。かなり若い時から政府に勤めてたから、早く昇進出来たってだけさ」
「いつから?」
「そう、だなあ・・・。攘夷戦争も佳境、って頃だったか・・・?」
攘夷の言葉に、僅かな反応を見せる銀時。
けれど気づかず、長谷川は続けた。
「ああ、そうだ。時間が長いだけじゃなかったな。一つ大手柄を立てたから、若くして異例の抜擢になったんだった」
「へぇ!アンタが?大手柄?」
「そりゃあ意外かもしれないけどさ、何もそんなに驚かなくたって・・・。まぁ、結構マジメな話、昔は政府の役人だって下っ端は戦場に駆り出されててライバルは殆ど死んでたし。だから、生き残ったってだけで価値が上がったんだよ」
「そ、か。オレも、大事なダチ、たくさん失くしたよ」
長谷川は銀時が過去に攘夷戦争に参加していた事を知らない。
役人に知り合いがいたのかと内心に驚きながら、話を続けた。