短編【1】

□にわとりとたまごのポルカ
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「受付の中忍が、身の程知らずにも写輪眼のカカシに色目を使っている」と噂になっていることは、イルカの耳にも入っていた。
入ってはいたが、だからといって行いを改めるわけにもいかない。
なんとなれば、それは当のカカシ本人の要望によるものだったからだ。


「イルカ先生はさ。すーぐ仲よくなるよね」
イルカ宅の居間で、こちらに背を向けて畳に横になったカカシに突然そう言われて、イルカは面食らった。
「…誰とですか」
「誰とでも」
背中越しにこちらに向けられる声には不満が詰まっていた。
要するに、ヤキモチなのだ。アカデミーの幼年クラスではよくあるケースだ。
子どもたちは、各家庭ではアイドルでも教師にとってはいち生徒である。
親が自分の子どもに注ぐような100%の愛情をすべての子どもに向けるわけにはいかない。
愛情も注意も均等に振り分けられるのだ。

だが。
いま目の前で拗ねている男は生徒ではない。夏の終わり頃からいろいろあった末にようやく想いを通じ合ったイルカの恋人である。

時代と恵まれ過ぎた資質のせいで幼い頃から戦場に出ていたはたけカカシは、生きて帰る彼なりの施策として
「この世に未練を残しておく」ことを心がけていたという。
そのため、想いを懸けたイルカにも気持ちを伝えずにいたのだが、ちょっとした誤解で逆上した末に恋情を吐露するはめになった。

熟慮の末イルカは彼を受け入れ、晴れてふたりは恋人同士となった、はずだった。
はずだったのだが、どうにも噛み合わない。
なにしろ相手は四半世紀もの間、現実の恋愛を拒絶して生きてきた男である。
自分の気持ちを持て余しているのが見て取れるだけに、もどかしいながらもイルカは辛抱強く接していた。

そして今、カカシの発したひと言がすとんとイルカの腑に落ちた。
なるほど、この人は恋愛アカデミーに入学したての一年生なのだ。
ならば〈先生〉はやはり自分をおいて他にない。

「…オレは、人と接するのが仕事です。アカデミーでも、受付でも。
相手に失礼のないように振る舞わなければならないんです」
注意深く観察しながら語りかけると、カカシの肩にぐっと力が入る。そこにそっと手を置き、
想いが熱として伝わることを願いながらイルカは言葉を継いだ。
「でもカカシさんはオレにとって特別な人です。だから、アナタを他の人よりもっと大事にすることで我慢してくれませんか」

カカシはそれを聞くと、肩越しにゆっくりと振り返りイルカを見上げた。
喜びと期待、そして不安に瞳が揺れている。
そっと髪を梳いてやると、ごろりと体を反転させイルカの膝に額を擦り寄せてきた。

イルカの胸に、息が詰まるほどの愛おしさがこみ上げる。
彼の為ならなんでもしてやりたいと、そのときは確かに思ったのだ。
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