短編【1】

□恋につける薬
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「なにを話してた?」
「は?」
「うみのイルカと。なにを話してたの」
「えっ…と、お遣いをお願いしていたので、その報告を」
「なにか問題はなかった?」

その言葉に、シズネの身の内に緊張が走った。
身辺調査だ。しかも里でも屈指の上忍が自ら。
あの、一見善人丸出しのアカデミー教師が他里の間者だとしたら。
油断していた。シズネ自身、なにか致命的な情報を漏らしてはいなかっただろうか。
初対面まで遡って記憶をチェックしながら、シズネはやっとのことで答えを返す。
「…特に不審な点は、ありませんでした」
「不審でなくてもいい。なにか、小さくてもいいから落ち度はない?」

シズネは目を瞠った。
別件逮捕。
尋問部隊に引き渡す為の口実が必要なのか。

「そこまでの、大物なんですか」
シズネの言葉に、カカシは不快げに眉を顰めた。
「んなわけないでしょ。あんな絵に描いたような中忍」
「そんな!じゃあなぜ粗を探すような真似を…」
「粗なんて探してない!」

突然声を荒げたカカシに、シズネは度肝を抜かれた。
少なくとも自分の知るカカシは、こんな場面で感情を昂ぶらせる人物ではない。

「探してるじゃないですか」
様子を窺いながらおそるおそる聞くと、カカシ自身も恥じ入るように顔を逸らして言う。
「…じゃあ、シズネさんから見たうみのイルカはどんな感じ?」
「どんな感じって」
「なんでもいいよ。容姿が十人並みとか、上忍への昇格の見込みはなさそうだとか、将来禿げそうだとか」
「どうあっても、ネガティブな評価を聞きたいんですね…」
なんだかわからないが、この上忍はあの中忍教師が嫌いらしい。
「違ーうよ。確認したいだけ。あの人がつまんない人だってことを」

「いい加減にしてください」
ついにシズネの堪忍袋の緒が切れた。
「なんなんですかさっきからネチネチネチネチと!イルカ先生はいい人ですよ!
私はまだ会ったばかりですけど、あの人が信用するに足る誠実さを持ってるのはわかります!」
カカシの目が射るように鋭くなっても、構わずシズネは続けた。
「そりゃ目の覚めるような美男子ではないけど感じはいいし、なによりいい旦那さんになりそう…」
「黙れ!!」
怒号とともに殺気を当てられ、思わず身を竦める。
「聞きたくない!もう、やめてくれ…」

語調は急速に尻すぼみになっていき、殺気が消え去ると、後に残されたのは悄然と肩を落とし苦しげに顔を歪める上忍の姿だった。
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