短編【1】

□かげろうの恋
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「見て見てイルカ先生、似合うー?」

職員室で机に向っていたイルカは、振り返ってぎょっとした。
メッシュの入ったウエーブヘアを頭の片側に結い上げ、露出の激しい服を着た若い女が目の前に立っていたからだ。
思わずどちらさまで、と聞き返しそうになったが、まだ板についていない化粧と耳元の大きな造花のイヤリングを意識から追い出せば、
それは三年ほど前にアカデミーを卒業していった少女だとわかった。

「…涼しそうだな。腹冷やすなよ」
「そういうこと聞いてるんじゃないってば!」
「あーはいはい。夏らしくていいんじゃないか」
「どうせ子どもにはまだ早いとか思ってんでしょ」
その通りだ。だが言葉は選ぶべきだろう。そう考えて、イルカは頭をフル回転させて答える。
「だってなあ。そういうのはいずれもっと似合うようになるんだし、今は今しか着られないもの着といたほうがいいと思うぞ、オレは」

選んだはずの言葉が却ってクリティカルヒットになってしまったらしい。
「いずれ、なんて。今すぐじゃなきゃ意味ないのに」
声に含まれた哀しみの色に、思わず少女を見返した。
この子なりになにか思い詰めているのだろう。

イルカは机に向き直ると、手早く書類をまとめながら声を張り上げる。
「あー暑いなあ。クリームあんみつでも食いに行くか。おごるぞ」
少女は、そうやってまた子ども扱いする、と泣き笑いの顔で言った。


今日は受付のシフトに入っていないので、まだ明るいうちに少女をつれて職員室を出た。
甘栗甘でいいよなと顔を覗き込むと、アカデミーの玄関ホールを挟んで反対側、廊下の奥の方を凝視している。
釣られるように目を向けたイルカは、受付所の扉の前辺りにいる人物に目を留めた。
遠目に見ても、その銀髪と白い肌ははっきりと見える。
顔はこちらを向いているので会釈をしたが、相手は動かない。
代わりに、隣の少女が動いた。
イルカの腕にしがみつき、見せつけるように胸を張る。

(あー。カカシさん絡みの話だったか)

イルカは気が重くなるのを感じて、そっと胸の内でため息をついた。
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