短編【1】

□酔歩
1ページ/2ページ

イルカ先生が中座したままなかなか戻ってこないので、気になって様子を見に行ってみたら、
果たして廊下の壁にすがって斜めに立っていた。ああ、やっぱり。

今日は珍しく、上忍中忍入り乱れての大宴会となった。
受付で顔なじみの多いイルカ先生は、いろんな奴にお酌したりされたりしていたから、こうなる気はしてたんだ。
強引にでも隣に座ってガードするべきだったか。

「イルカ先生」
声をかけると、ゆっくり振り返ってオレを見上げた。
「あ…カカシせんせえ」
いつもまっすぐ力強い瞳に靄がかかっている。でもそれはそれでどきっとさせられる艶があった。

「大丈夫?」
「はぁい…」
全然大丈夫じゃない。こんな歯切れの悪い喋り方をするのを初めて聞いた。

「もう帰った方がいいね。送っていきますよ」
「いへ。だいじょーぶです」
あやしい呂律で言うのを黙殺して腕をとった。
さっきまでいた座敷を覗くと、すぐ手前でゲンマが猪口を舐めている。ちょうどいい。
隣でゆらゆら揺れているイルカ先生を示し「オレ、この人送ってくるわ」と言うと、
「あーイルカですか。ずいぶん飲まされてましたからね。悪いけど頼みます」
そう言った後、意味あり気な視線でオレを見てちょっとだけ口角を上げた。
いや、計画的犯行じゃないから。ほんと。

計画的ではないが、せっかく与えられた機会は生かしたい。
足下の覚束ないイルカ先生をフォローするため、と理論武装した上で、
脇腹に手を回して引き寄せる。横並びで腰を抱いている格好だ。
こういうことがあるから、男も女もこぞって意中の相手と酒を飲みたがるんだなあ。
オレはその恩恵に与るのは初めてだけど。

「お宅はどちらの方角ですか?」
曲がり角で聞くと視線をさまよわせ、オレを引っ張るように進み出す。
角に出る度にその方法で進路を決めさせ、オレは歩行器に徹していたのだが、徐々に見覚えのある風景になってきた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ