続きもの置き場

□スプリング・フィーバー
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【4】

暦の上ではもう春とはいえ、やはりまだ冷え込みは厳しい。
日暮れまでには帰りつきたいと、カカシ率いる小隊は任務を終えて木ノ葉へひた走っているところだった。

「!」
行く手の上空に黒い点が現れたかと思うと、見る間にそれは鳥の形を成す。
そしてカカシの頭上で大きくひとつ輪を描いたあと、そのまま後方へと飛び去っていった。

「…隊長」
背後の部下が不安げな声をあげる。
「木ノ葉でなにかあったらしいな。急ぐぞ」
「はっ」
道の先の故郷を目指し、隊は速度を上げた。


里の大門の前に門番が立っている。
だが、今は出入りを見張るためにではないことがすぐにわかった。
「あっ」
彼はカカシの姿を見ると、わずかの間も待てぬ様子で駆け寄ってきた。
「はたけ上忍!緊急事態です、すぐ火影様のところへ!」
門の内に足を踏み入れずとも、里が異様な空気に包まれていることはわかる。
カカシは頷き、背後の副長格の部下に任務報告を頼むとすぐに火影屋敷へと向かった。


「失礼します!」
ノックの返事も待たず火影室に飛び込むと、里を統べる老翁は目の前の玉を厳しい表情で見つめていた。
「はたけカカシ、ただいま帰還いたしました」
「うむ」
水晶を凝視したまま、三代目火影は重々しく答える。
「帰る早々ですまぬが…実はナルトが禁術の巻物を持ち出しての」
「!」
なるほど、火影が自分だけを呼びつけた理由がわかった。
一刻も早くナルトを保護しなくては。
他の者に先に見つかればリンチにあいかねない。

そして万一、九尾の封印が破られるようなことがあれば、そのときは。

そこでふと、嫌な想像が胸をよぎってカカシは尋ねた。
「ナルトはなぜ巻物の存在と保管場所を?」
「…そそのかした者がおるからじゃ」
「アカデミーのミズキ、ですか?」
老人は虚を突かれたように一瞬だけ顔を上げた。
その目はもの問いたげだったがそれ以上は追求してこず、再び水晶玉に視線を落としながら言う。
「そうじゃ。そのうえ九尾のことまでナルトにしゃべってくれよっての…ショックを受けたナルトは今、
巻物を持って木ノ葉の森を北に移動しておる」
「追います」
即答したカカシにひとつ頷いてみせたあと、三代目は付け加えた。
「ナルトの担任の教師も、あやつをかばって重傷を負ったままふたりを追っておる。
じゃが、今のナルトにはすべての者が敵に見えとるじゃろう。急げ」

呼び出した古株の忍犬とともに木ノ葉の森を北上しながら、カカシはずっと悔い続けていた。
あのとき。
ナルトのいたずらの跡を片づけながらイルカを励ますミズキの言葉を聞いていて、なにか嫌な感じを受けた。
それを自分は、個人的な理由で気に食わないだけだと思いこんでいたのだ。
けれど違った。今思えば、ミズキの言動にはあまりにも陰が無さすぎた。
九尾の災禍を経験した者ならば、ナルトという少年に対して少なからず思うところはあるだろう。
だがあの男は、苦悩するイルカに対しても綺麗ごとを並べるばかりで、腹を割ってみせようとしなかった。それがどこかでひっかかっていたのだ。

一点のくもりもないあの笑顔が仮面であったことに、今頃気づくとは。
片意地を張って目をそらしたりせずにいれば、ナルトに禁忌を犯させイルカを危険に陥れずに済んだかもしれないのに。
枝を蹴り風を切りながら、カカシは後悔と焦りで気も狂わんばかりだった。

「いたぞ、カカシ」
前をゆくパックンの声にはっと我に返り、カカシは気を引き締めた。
どうせ後悔するのなら、すべての片がついてからだ。
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