続きもの置き場

□スプリング・フィーバー
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イルカの勧めでナルトがおかわりをしたので、先に食べ終えたカカシは勘定をして外に出た。
物陰に身を隠してから変化を解き、ふたりが出てくるのを待つ。
ややあってまずナルトが、それからイルカが暖簾を分けて姿を現した。

「イルカ先生、ごっそさん!」
「旨かったか」
「うん!」

幸せそうだ、とカカシは思った。
ナルトも、イルカも、満ち足りているように見える。
あの小さな店内は、微塵の悪意もない幸せな空間だった。
居合わせたカカシまでその恩恵に与れるほどに。

少し先の角でふたりは別れた。
明日寝坊するなよ、と声をかけるイルカに、ナルトは先生こそー!と叫びながら手を振った。
なんとなく名残惜しくて、カカシはイルカと同じ方向に歩き出す。
そのまままっすぐ家に帰るのだろうと思っていた。
だが、進むにつれどこに向かっているのかカカシも気づく。
夕闇に沈んだ、ひと気のない第三演習場。慰霊碑の前で彼は立ち止まった。
体の横で両の拳を握りしめながら、長い間動かないでいる。
何を語らっているのか。
おそらくは英雄となった両親と。

九尾が彼の両親の仇であろうとも、ナルトに罪があるわけではない。
自分の大切な生徒のひとりとしてナルトを愛したいと思ったところで、それは亡くなった人たちへの裏切りではないのだ。
今日という日をあの子と過ごすことを選んだ彼には、充分にわかっているはずだ。

それでも。

葛藤しているのであろう彼に駆け寄りたい衝動を、カカシは堪え続けていた。
わかってやれる。
オレなら、彼を温めてやれる。
アナタが悪い訳じゃないのだと、抱きしめて囁いてやれる。

今は無理だ。見知らぬ男にいきなりそんなことをされては、開く扉も閉ざされてしまうだろう。
でも、いつかその日がきっと来る。正しい出会い方をすれば、必ず彼にも伝わるはずだ。

オレの直感は正しかった。やはり彼と自分は同じ痛みを抱えた者同士だった、とカカシは改めて思った。
ひとこと寒い、と呟いてくれたなら、オレはいつでも彼のもとに駆けつけよう。
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