続きもの置き場

□スプリング・フィーバー
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【2】

気にするまいと決めたはずなのに、カカシは無意識にうみのイルカを追い続けていた。
いちど知ってしまった名前を忘れることはできず、誰かがそれを口にすれば耳が勝手に拾い上げる。
やけにその頻度が高いと思ったら、彼は教師の他に受付業務も担っているらしい。
これまでカカシは受付を通さない任務ばかり請け負っていたし、聞いたとしても流していたのだろう。
でなければ知らずにいたこと自体が不思議だった。

なにしろ彼のクラスにはうちはサスケとうずまきナルトがいる。
サスケは今となっては木ノ葉でただひとりのうちは一族で、貰いものとはいえ写輪眼を持つカカシとしては、いずれ関わらざるを得ない存在だ。
そしてナルトの方は。
カカシの師である四代目火影・波風ミナトの忘れ形見であり、その身に九尾の狐を封じられた人柱力でもある。
そのふたりが同じクラスであることすら知らなかったのはいくらなんでも無関心すぎたかもしれない、とカカシは自省し、
里内の事情にも目を向けてみる気になった。

だが、サスケやナルトを知ろうとすれば自然イルカのことも耳に入ってくる。
その度にどういうわけかカカシの心は乱れるのだ。
彼の面影が胸をよぎると苦しいような切ないような気持ちになるのは、やはり自分の勝手な感傷なのか。
どうにも判断がつかないところにまた苛立ちを誘われる。

こうなったら逆療法だ。
うみのイルカを調べあげてやろう。
余すところなく彼を知れば、飽きて関心もなくなるはずだ。

ただしそれを実行するに当たっては、細心の注意を払わなくてはならない。
表立って調べ回れば人の口に上る。
一過性の興味にすぎないことを騒ぎ立てられてはのちのち面倒だろう。
いかにさりげなく、不自然でなく聞き出せるか。
日頃培った情報収集の腕が試される時でもある。

これは、自分自身を依頼人とする隠密任務だな。
その思いつきはカカシの心を浮き立たせた。
平和に箍の緩んだ里での生活にも張りがでるというものだ。

かくしてはたけカカシの暗躍が始まった。
情報を集めるなら、なにはなくともまず人脈だろう。
だがカカシはこれまで、自分から積極的に人との関わりを持とうとしてこなかった。急に態度を変えれば目立ってしまう。
そこでまず、待機所など人の集まるところでは愛読書を開くのをやめた。
手持ち無沙汰を装っていれば話しかけてくる者はいる。
顔見知りが増えてきたところで、世間話の中からイルカへとつながる手がかりを探した。ひとつそれを得たら、
今度はそこへ話を持っていくためのヒントをまた探す。
いくつかのクッションを経れば、最終的にうみのイルカへ行き着いても相手に印象は残りにくい。
会話のパターンをできるだけ増やして、気づかれることなく彼の情報を引き出すのだ。


カカシの中に、イルカへとつながるキーワードが蓄積されていく。
アカデミー、受付、ナルトやサスケを含むクラスの子どもたちといった彼を取り巻く環境にまつわるもの。
鼻の傷や結い上げた髪など、身体的な特徴。
彼に目をかけている三代目火影。
ラーメン一楽。
温泉。

そして、九尾の狐。

イルカの両親は十一年前のあの夜、九尾に立ち向かい命を落としていた。
その彼のクラスにナルトがいるのは、火影の意向か天の配剤か。

そうなれば気になるのはイルカとナルトの関係だ。
聞いた限りでは特に問題は起きていない。
だが、ある者はナルトのいたずらをを叱るイルカの態度に私情がが見え隠れするといい、またある者は特別扱いが目に余る、と述べる。
結局、語る者のナルトへの感情をイルカに仮託しているに過ぎず、こればかりは直に自分の目で確かめるしかあるまい、と
カカシは実に久しぶりにアカデミーに足を踏み入れた。
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