続きもの置き場

□デュエリスト
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【3】
鬱々とした気分で待っている気にもなれず、イルカの姿を求めて受付を覗いてみる。
姿が見えないのでその場にいる者に聞いてみると、アカデミーの用事で職員室に呼ばれたという。
ここまできた以上とそちらへ向かうが、中から聞こえた声に扉の前でカカシは足を止めた。

イルカと、若い女性が、なにやら楽しげに笑い合っている。

ただそれだけだ。
別に色っぽい内容で語らっているわけではない。
だが、その健康的な笑い声が、いまのカカシには違う世界から響いてくるように思われた。


どさり、と埃を立ててカカシはベッドに倒れ込む。
イルカとはほぼ同棲状態だったが、こうやってひとりになりたいときのために自分の部屋も残してあった。
ここに来るのは過酷な高ランク任務帰りのことがほとんどで、そういうときにはイルカも敢えて探しに来ない。
だが今日は約束していたのだ。それをすっぽかしたのだから、もしかしたら彼は来るかもしれない。
期待なのか不安なのかわからない気持ちで横たわっているうちに、いつしか眠りに落ちていた。


朝目覚めて、カカシは自分が期待していたのだと知った。
そしてそれが叶わなかったことで、自分がなにかを諦めてしまったことも。

それからカカシは、イルカの部屋には帰らなくなった。
顔もできるだけ合わせないように気をつけた。
イルカがカカシを訪ねてきたのは、それからちょうど一週間後だった。


ドアの前で、イルカはしばらく逡巡していた。
互いに気配を探りあい、どうしたものかわからないままカカシがじっとベッドに転がっていると、
やがて決心したようにドアが叩かれた。

出ないわけにはいくまい、と自分に言い訳をしながら応対に出ると、イルカの瞳が不安げに揺れる。
「カカシさん…あの」
「何の用?」
出ばなをくじくと、ますますイルカは萎縮した。
「最近、来られないから…」
「って言われてもねえ。オレの部屋はここだし」
イルカは唇を噛む。
そういえば、互いに気持ちをはっきり言葉にしたことはなかったのだ。
態度で示し合っていたときは必要なかった事実が、今は意味を伴って重くのしかかる。
「…アンタも、もう平気でしょう?ひとりでも、さ」
「カカシさん…」
なにかを堪えている顔で、イルカはカカシをひたと見据える。
「もう、オレは必要ないということですか」

必要のあるなしでいえば、むしろ逆だ。
アンタには、オレのような人間は毒になるだけなんだ。
ならばいっそ、とカカシは忍としての貌をつくる。
「…いつかさ。オレのことを知りたいなら教えてやる、って言ったよね」
それはイルカが初めてこの部屋を訪ねてきたときのことだ。
もちろん覚えているのだろう、イルカがはっと息を飲む。
「まだ、アンタに教えてないことがひとつある。それで、最後だ」

覚悟を決めるようにきゅっと固く唇を引き結んだイルカ。
それは久しぶりに見るサムライの貌だ。
その貌に向けてカカシは言い放った。

「…つばくろ丸を斬ったのは、オレだよ」
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