続きもの置き場

□イノチガケ
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【2】

「あれ?こんばんは」
一楽の暖簾をくぐったイルカの目に入ったのは、淡い色の髪と対照的な黒いマスク。
カウンターに、あのはたけカカシが座っていた。
少し遅い時間だったので店内に他の客の姿はない。

「ああどうも。仕事帰りですか、お疲れさまです」
「はい、カカシ先生こそお疲れさまでした。こちらへはよくいらっしゃるんですか?」
「ええ、最近ね」

イルカは失礼します、とことわってカカシの隣にかける。
店主にみそチャーシュー大盛りを頼むと、カカシはオレと同じだ、と笑った。
「やっぱり、ここへ来たらこれですよね」
「いや、オレの場合はナルトの受け売りです。アイツの話は七割方ここのことでしてね」
「…しょうがないやつめ」
他にもっとするべき話はないのか、とイルカは苦笑するしかない。

「ナルトによれば、ふつうのラーメンとイルカ先生にごちそうになるラーメンは違うらしいですよ。
おごってもらうと倍うまいって」
「お、じゃあ新メニューとして〈イルカのおごり〉ってのも載せるか」
手を動かしながらも話を聞いていた店主のテウチが混ぜっ返す。
イルカがかんべんしてくださいよ、と悲鳴をあげ、ひとしきり笑い合った後ふと会話が途切れた。

いい機会だ、とイルカは思った。
ここでカカシ先生に、オレの決意を聞いてもらおう。

「あの」
「はい?」
「先日は、ありがとうございました。おかげさまで、目が覚めました」
神妙なイルカの言葉に、カカシは水の入ったコップを持ったままきょとんとしている。

「なんのことでしょう?」
返ってきた言葉に、イルカはショックと失望を感じた。
忘れてる。この人にとっては、その程度のことだったんだ。

落胆しながらも、それで腹を立てるのは筋違いだと気を取り直してイルカは続けた。
「この間、オレは子どもたちに勝つのも難しいだろうっておっしゃいましたよね。
あの時は正直カチンときましたけど、言われてみればその通りで、」

言い終わらないうちに、カカシがコップをカウンターにタン!と音を立てて置いた。
が、慌てていたらしくそのコップを倒してしまう。
カウンターにはたちまち水たまりができた。

テウチに台拭きを借りて水を拭いている間、カカシは文字通り頭を抱えている。
このぐらいのことでなにもそこまでへこまなくても。
日頃はよほどミスの少ない人なのか、と思いながら動かしていた手首を、イルカは突然掴まれた。
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