続きもの置き場

□約束の橋
7ページ/9ページ

意外な告白だったが、聞いてみればそれはすんなりと腑に落ちた。
岩と森に囲まれた隠れ里である木ノ葉では、海もイルカもなじみが薄いものだ。
実際、うみのの姓を持つのは里中でもイルカひとりだけだった。
両親を亡くすことで即、天涯孤独の身となったのも、他国からの移住者だったからなのだろう。

「従兄妹同士だったんですが、一族で事故に巻き込まれて、ふたりだけが生き残ったそうです。
波の国は当時から貧しくて、身寄りのない子どもが生きていくには厳しかった。
そんな時、木ノ葉は人道的な里で、忍の初等教育を行うアカデミーもあると聞いて…」

まだ幼かったイルカの両親は、手を取り合って木ノ葉へとたどり着いた。
当時すでに火影だった三代目は、事情を聞いてすぐにふたりを受け入れてくれたのだという。

「忍としての素養は乏しかったけれど、丁寧な指導を受けたおかげで両親はどうにか中忍になれました。
オレも小さい頃から、火影様とアカデミーに感謝を忘れてはいけないよとくどいほどに言われて育ったんです」

実はね、とカカシの肩に顔を埋めたイルカが呟く。
オレの鼻の傷は、生まれた時に両親が刻んだものなんです。
抜け忍が額当ての刻印に傷を入れるように、波の国を捨てた証を立てるために。
そしてオレには、木ノ葉に己が身を捧げることを忘れるな、と戒めるために。

その壮絶な由来に、カカシは思わず絞り出すような息を吐いた。
しかし当のイルカは意に介さず語り続ける。

「正直、小さい頃は深く考えたことはありませんでした。でも…あの日」
九尾が里を蹂躙した日。
イルカは両親が文字通り命懸けの忠誠を里に示したのを見せつけられる。
同時に身寄りを失い、その両親が辿った心の軌跡を自らも踏襲することとなった。

「毎日怯えて暮らしていました。お前はよそ者だと、この里から出て行けと言われたらどうしようと。
三代目は、火の意志を持つ者はみんな家族だと言ってくれましたが、
ご意見番方はどうお思いかわかりませんでしたし…」

イルカの、どこか殉教者じみたストイックさと三代目への忠心はそこから来ていたのか。
カカシの中で、イルカに関する疑問が連鎖的に解けていく。

イルカは常に、里にとって有益な忍であろうとしていた。
そうすることで木ノ葉で生きる資格を得ようとしていた。
それを束の間でも忘れさせられるのは、三代目と、それからナルトだけだったのだろう。

カカシは苦く思った。
イルカが自分の世話を焼きたがったのは、そうすることが里のためだからだ。
連日S級任務をこなす自分をケアすることで、間接的に里に貢献しようとしていたからなのだ。
意味合いは違ったけれど、やはり自分は思い上がっていたのだと、こみ上げる自虐的な笑いを噛み殺した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ